気胸患者の標準看護計画
気胸とは
気胸とは肺と胸壁との間の胸膜腔に空気の存在する状態である。通常、気胸は胸膜下にできた肺嚢胞が破れて起こるが、喘息などの慢性胸部疾患患者が強い咳をしたときにも起こる。年齢的には気胸は若い人に起こる事が多い。また、傷が胸膜を突き破り、胸膜を穿孔した場合にも起こる。これらの原因により胸膜腔は大気圧となるので、患側の肺は虚脱し、痛みと呼吸困難を伴う。さらに、進行し胸膜腔が陽圧となり心臓と縦隔が健側の肺の方に移動するものを緊張性気胸という。
症状
1. 胸部の鋭い痛み
2. 呼吸困難
3. 不安感
4. 微弱な頻脈(緊張性気胸)
5. 血圧低下(緊張性気胸)
6. 患側の正常な胸部運動の停止
検査
胸部X-P: 虚脱した肺の程度、縦隔偏位の程度
血液ガス分析
治療
1.保存的療法
安静
穿刺脱気
胸腔ドレナージ
2.手術療法(外科的療法)
VATS(胸腔鏡下)
開胸術
看護計画(胸腔ドレナージ)
アセスメントの視点(胸腔ドレナージ)
気胸は症状が軽妙な場合、空気は胸腔内から周囲の組織に次第に吸収されるので特別な治療を施さなくても肺は膨張する。しかし、肺虚脱の程度が著しく激しい痛み、呼吸困難が伴う場合は穿刺脱気、胸腔ドレナージを行う。患者はドレーンを挿入されることに対して不安を生じやすい。療法に関する正しい知識と理解をもてるよう患者に情報を与え、不安を軽減するように援助することが重要である。また、ドレーンパックの取り扱いについて十分な説明と指導が必要である。挿入中は、痛みが伴う、その痛みを最小限とし、生活しやすいように環境を整えていく必要がある。
問題リスト(胸腔ドレナージ)
#1.ドレーン挿入による疼痛
〔要因〕・ドレーン挿入
#2.セルフケア不足
〔要因〕・疼痛
・ドレーン挿入による拘束
#3.ドレーン挿入中の感染や閉塞
〔要因〕・ドレーン挿入
・ドレーン挿入による体動制限
・ドレーンの長期挿入
看護目標(胸腔ドレナージ)
1. 十分な換気が維持でき肺拡張がなされる
2. 疼痛が緩和され、安楽な呼吸ができる
看護問題(胸腔ドレナージ)
#1.ドレーン挿入による疼痛
&疼痛が緩和され深呼吸ができる
$ドレーン抜管まで
0-1・疼痛の程度
2・呼吸状態
3・睡眠状態
4・ドレーン状態チェック
T-1・医師の指示にて鎮痛剤の使用
2・安楽な体位の工夫
E-1・痛み出現時、呼吸困難時は直ちに知らせるよう説明する
#2.セルフケアが不足
&セルフケアの不足が補える
$ドレーン抜管まで
0-1・セルフケア不足部分の確認
T-1・身体の保清、身のまわりの介助
2・ドレーンの管理
3・環境整備
E-1・歩行許可があれば胸腔ドレーンの取り扱い方を指導する
#3.ドレーン挿入中の感染や閉塞
&発熱なくドレナージがスムーズにできる
$ドレーン抜管まで
O-1・熱型
2・呼吸状態
a・呼吸音
b・呼吸様式
c・皮下気腫の程度
d・疼痛の有無、程度
3・ドレーン挿入部の皮膚の状態
4・胸腔ドレーンの管理
a・吸引圧の確認
5・ドレーンや接続チューブの圧迫、屈曲の有無
6・ドレーンの固定の状態
7・エアリーク、呼吸性移動の有無
8・排液の性状、量およびその変化
T-1・ドレーン挿入部のガーゼ交換:1回/日
2・清拭時、ガーゼ交換時固定部位の確認
3・ドレーン周囲の清潔を保つ
4・体動時のドレーンの屈曲に注意する
5・管のミルキングは一般に不必要であるが、ドレーンの排液が濃い、またはフィブリンが付着していて詰まる恐れのある場合は医師に確認のうえ施行する
E-1・体動後のドレーンの状態に気を配るよう指導する
看護計画(手術療法)
アセスメントの視点(手術療法)
手術療法は、再発を繰り返す例や、保存療法で肺拡張が十分でないもの、ブレブ・ブラの存在により換気障害を起こしているもの、外傷により血気胸を起こしているものなどに施行される。胸腔を開く場合は胸腔内圧の変化と肺への直接的な手術侵襲により、術後は換気容積の減少を招きやすく無気肺、肺炎などの合併症を起こしやすい。肺合併症の徴候を早期に発見し対処する必要がある。
問題リスト(手術療法)
手術前
#1.肺の虚脱による呼吸困難
〔要因〕・肺の虚脱による呼吸面積の低下
#2.手術に対する不安
〔要因〕・疾患そのものへの恐れ
・手術そのものへの恐れ
・検査や治療に対する情報不足
・緊急入院による慣れない環境
・手術後や退院後の予期的不安
手術後
#1.痰の貯留による無気肺、肺炎の併発
〔要因〕・手術操作による分泌物の増加
・麻酔、鎮痛剤による呼吸抑制
・咳嗽が無効で分泌物の喀出困難
・肺組織の切除に伴う肺胞表面の減少
#2.疼痛による呼吸困難
〔要因〕・組織の外傷、肋間神経の刺激、術式(斜切開)による痛み
・ドレーンの挿入に伴う組織の刺激
・ドレーンが抜けるのではないかという不安から深呼吸へのためらい
#3.エアリークの長期持続
〔要因〕・術後の治癒遅延
看護目標(手術療法)
1. 十分な肺拡張がなされる。
2. 術後合併症が防止される
3. 疼痛が緩和され深呼吸ができる
Ⅳ.看護問題(手術療法)
手術前
#1.肺の虚脱による呼吸困難
&十分な換気が維持できる
$入院時~手術まで
0-1.胸痛の程度
2.呼吸状態
a.呼吸困難
b.呼吸音
c.呼吸様式
d.胸隔の動き
3.検査所見
a.胸部X-P
b.血液ガス分析
4.血圧、脈拍の変動
T-1.体位の工夫(ファーライ位、呼吸困難増強時は坐位)
2.安静保持
3.酸素吸入(医師の指示)
E-1.禁煙指導
2.安静指導
3.治療(脱気、胸腔ドレナージ)の必要性の説明
#2.手術に対する不安
&手術の必要性を理解し不安なく手術を受けられる。
$手術決定~手術まで
O-1.言動、表情
2.理解度
3.患者の精神状態の把握
T-1.患者の訴えを聞き、適切な対応をする
2.患者の理解度に応じた手術の説明を行う
3.手術前の呼吸訓練は行わない場合もあるので医師に確認しておく
E-1.不安を表出するよう話す
手術後
#1.痰の貯留による無気肺、肺炎の併発
&去痰が十分され安楽な呼吸ができる
$術後~7日
0-1.呼吸状態
a・呼吸音、肺雑音の有無
b・努力性呼吸、異常呼吸の有無
c・呼吸パターン、胸隔の動き
2.痰の状態:量、性状、色、粘稠度
3.血液ガスデータ
4.胸部X-P所見
T-1.去痰を図る
a・創部圧迫による咳嗽
b・吸入:3~6回/日
c・タッピング、バイブレータの使用
d・体位ドレナージ
e・サクション
2.口腔内ケア
a・含嗽、歯磨き
E-1.創部を押さえて咳をし、痰を出すよう指導する
2.深呼吸を十分行うように指導する
#2.疼痛による呼吸困難
&疼痛が緩和され深呼吸ができる
$術後~7日
O-1.疼痛部位の確認
2.疼痛の程度
3.呼吸状態
T-1.体位を工夫し安楽につとめる
2.鎮痛剤の使用
a使用後は呼吸抑制、血圧低下に注意する
3.硬膜外チューブのラインの確認
4.咳嗽時は創部に緊張がかからないようにする
E-1.咳嗽の方法を指導する
#3.エアリークの長期持続
&エアリークが消失し肺の拡張がなされる
$術後~7日
O-1.エアリークの程度
2.胸部X-Pの状態
3.ドレーンより薬剤を注入後は胸痛、発熱の観察
4.ドレーンより薬剤を注入後は白血球値のチェック
T-1.発熱時はクーリング、解熱剤の使用
2.疼痛時鎮痛剤の使用
E-1.薬液注入後の症状(痛み、発熱)について説明する