すぽんさーどりんく

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器質性精神障害患者の標準看護計画

器質性精神障害患者の標準看護計画


器質性精神障害とは

 器質性精神障害は従来、外因性精神障害と呼ばれるもので、脳の一次的な病変に基づく精神障害(脳器質性精神病)と脳以外の身体疾患に起因する精神障害(症状性精神病)がある。

 1.急性の脳器質性精神障害、症状性精神障害
 粗大な一次性の脳病変に伴って生じる精神障害で、病因として、1)中枢神経系の感染症、2)薬物・アルコールによる離脱症状、3)急性代謝障害、4)外傷・火傷、5)中枢神経障害、6)低酸素症、7)内分泌障害、8)急性血管障害、9)薬物・有機溶剤による中毒、10)重金属中毒、11)サイアミン・ビタミンB12欠乏等がある。

 2.慢性の脳器質性精神障害
 各種の身体疾患に伴って二次的に障害されて出現する精神障害で、病因として、1)神経変性疾患、2)脳腫瘍、3)外傷、4)進行麻痺、その他の脳炎、5)血管性認知症、多発性梗塞、6)代謝性疾患、7)内分泌疾患、8)中毒性疾患、9)低酸素状態、10)ビタミン欠乏や栄養障害等があげられる。


アセスメントの視点

 臨床症状を規定する要因として重要なものに、急性か、亜急性か、慢性か、ということがある。急性の脳器質性精神障害あるいは症状性精神障害では意識の障害が基礎にあり、特徴的な症状として傾眠、昏迷、昏睡といった意識水準の低下と、それに錯覚、幻覚、妄想等の精神現象が加わった状態である意識混濁があげられる。意識の混濁による精神症状はアメンチア、もうろう状態、譫妄等で可逆的で浮動性であるという特徴をもつ。また意識障害から回復する段階で一次的に感情、意欲の障害、不機嫌、健忘等の症状がみられることがあるが「通過症候群」と呼ばれるもので、意識障害はほとんど目立たず経過は可逆的である。慢性の脳器質性精神障害では軽度の時は不定愁訴を主とする神経衰弱様症状や人格変化等がみられるが、重度になると認知症が目立ってくる。一般的には持続性で多くは不可逆的である。しかし器質性精神障害には各疾患特有の神経身体症状があり、経過・治療・予後は多種多様となるため、それらも十分
理解しておく必要がある。


症状

 器質性精神障害には病因の異なる種々の疾患が含まれ、様々な精神症状が出現する可能性がある。しかし疾患の種類とは無関係にいくつかの点で共通する精神症状(ないしは精神病像)がみられることもあり、これらの主な症状を説明する。

 1.急性の脳器質性精神障害・症状性精神障害の特徴
1)意識混濁: 注意力の低下、思考の混乱、錯覚、幻視、昼夜逆転、活動性の亢進あるいは低下、見当識障害

 2.慢性の脳器質性精神障害
1)認知症
2)健忘症候群: 短期及び長期の記憶障害、失見当識、作話
3)器質性幻覚症: 意識混濁を伴わない幻覚
4)器質性感情症候群: 躁あるいはうつ状態
5)器質性不安症候群: 繰り返される不安、全般性の不安
6)器質性人格症候群: 不安な感情、明らかな攻撃、激怒反応、反社会的行為、性的逸脱、高度感情の低下、無気力、疑い深さ


検査

 臨床症状から想定される原因疾患を種々の検査を用いて検索する
 → (例) ピック病:CTスキャン、MRI、SPECT、EEG、心理検査(神経心理)


治療

 器質性精神障害では身体医学的検査が診断する上で不可欠であり、急性型では原因を究明しそれを治療することが何よりも優先される。慢性型の認知症状態においては認知症そのものを完全に回復させる治療法はなく、一次性脳萎縮による認知症は残存機能の保持及び合併症の予防が治療の中心となる。また抑うつ、不安、不眠等の周辺症状に対しては対症療法が必要な場合もある。
 → (例) 一酸化中毒:高圧酸素療法、対症療法として向精神薬を使用


経過と管理

 器質性精神障害は慢性・急性に分類される。急性の状態は脳の機能障害による症状の突然の発症で始まり、多くは譫妄を伴うことが多い。障害は時間の経過と治療によって回復するか、または原因によっては機能障害を残したり、または進行性で回復できずに認知症に至ることもある。慢性の状態としてはアルツハイマー病のように一般にやや潜行性に発症するものがあり、症状の進行は緩慢で不可逆性のものもあれば、急性から慢性に移行するものもある。




看護計画


Ⅰ.アセスメントの視点

 器質性精神障害を来す疾患は非常に多く、その看護を詳細に論じるのは困難であるが共通する点も多い。急性期においては原因疾患が治療・除去されることで患者は急速かつ劇的に回復することが多く、医師の適切な診断・指示に基づいた基礎疾患の身体的な症状への援助が必要である。また重要な症状として意識の混濁(臨床的には譫妄が多く、特に夜間に出現)があり、長期に及ぶと患者を疲弊させ、認知症を進行させることもある。原因疾患のチェック・治療を行うと同時に譫妄を増悪させている要因、すなわち環境の変化、夜間長期の拘束、終日変化のない病室、看護者の言動等についても注意し、できるだけ保護的に接していくことが大切である。慢性症状に対して、自傷・他害・器物破損等の危険がなく、妄想的な考えに囚われず生活できるよう援助していく必要がある。


Ⅱ.問題リスト

#1.夜間の異常行動による睡眠の障害
   [要因]・失見当識
       ・思考の混乱
       ・錯覚
       ・幻覚・妄想
       ・精神運動興奮
       ・拘束
       ・環境の変化
       ・原因疾患の悪化

#2.失見当識に基づく周囲への不適切な解釈
   [要因]・幻覚、妄想
       ・記憶障害
       ・感情の多様性
       ・環境の変化
       ・注意障害
       ・知的能力の低下(認知症)
       ・判断力の障害
       ・原因疾患の悪化・術後

#3.精神症状による自傷・他害・器物破損行為
   [要因]・幻覚、妄想
       ・錯覚
       ・衝動の抑制障害
       ・激怒反応
       ・精神運動興奮
       ・周囲への無関心
       ・絶望感
       ・判断力の障害
       ・知的能力の低下


Ⅲ.看護目標

1. 休息・睡眠・活動のバランスを維持または回復できる
2. 損傷の危険がなく他者や器物に危害を加えない
3. 心身両面から患者に刺激を与え、機能低下と認知症状態の進行をできる限り食い止め、情緒的な生活の安定と適応を図る


Ⅳ.看護問題

#1.夜間の異常行動による睡眠の障害
   [要因]・失見当識
       ・思考の混乱
       ・錯覚
       ・幻覚・妄想
       ・精神運動興奮
       ・拘束
       ・環境の変化

  &患者、他患者の安全が守られ、かつ安心して入眠することができる
  $退院まで

O-1.見当識:時、場所、自己の置かれている状況等
  2.幻覚、妄想状態
  3.昼間の睡眠・行動状況
  4.夜間の幻視、錯覚の内容と出現時間及び行動状況
  5.原因疾患の悪化の程度
  6.全身状態、VS
  7.意識状態の変化

T-1.患者の事故防止に努める
     1)危険物を周囲に置かない
     2)障害物を除去し動きやすい環境をつくる
     3)患者の持ち物の所在を把握しておく
     4)ベッド柵の使用や低床ベッドを利用する。またはマットレスを床上に降ろす
     5)夜間覚醒している場合は訪室を密にし、常に視野の中に入れる
     6)離院した場合は「緊急事故発生時の手順」に従う
  2.患者の睡眠を促す
     1)患者にとって譫妄体験は本物だということを念頭において不用意に否定しない
     2)深呼吸を促したり、背部マッサージ、湯たんぽ等身体的安眠を図る
     3)就眠時、患者の側で見守り手を握る等して入眠を促す
     4)就眠前にテレビ鑑賞や読書等の気の休まる習慣を持つよう促す
     5)夜間、暗い部屋が不安な場合は部屋の電気を明るくしておく
     6)どうしても入眠できない場合は医師の指示を受ける
  3.他患者の睡眠が確保できるよう配慮する
     1)部屋の考慮
  4.原因疾患の改善への援助
     1)譫妄の原因となる原因疾患の身体管理を行い、悪化防止に努める
     2)水分・栄養の補給を行い、合併症予防に努める
  5.失禁や放尿をすることがあるので、時間的に排尿誘導したりオムツを使用する
  6.幻視により不安・不穏が強い場合
     1)訴えをよく聴いて現実に有り得ないことを説明し保証する
     2)病院にいることを常に思い起こさせる
     3)医師や看護者に安全が保障されていることを確信させる
     4)精神症状が強い場合は医師の指示に基づき処置を行う
     5)喫煙時は観察下とする
  7.日中は昼夜逆転しないよう活動を促す
  8.不必要な夜間長期の拘束は避ける
  9.絶えず安心感が持てるよう援助する
     1)安心できる言葉掛けや手を握る等良い関係づくりに努める
     2)行動を急がすような声掛けはしない。一つ一つのことをゆっくり対応し納得で
      きるように関わっていく
     3)周囲の刺激に敏感になったり静けさが不安を助長することもあるので、環境の
      変化に注意する
  10.見当識をつけるための情報を提供し,治療を進めるに必要な処置について繰り返し
    説明する

#2.失見当識に基づいた周囲への不適切な解釈
   [要因]・幻覚・妄想
       ・記憶障害
       ・判断力の低下
       ・環境の変化
       ・注意障害
       ・不安、混乱の増大
       ・理解不足

  &周囲への適切な知覚を示すことができる
  $退院まで

O-1.意識障害の有無
  2.健忘の有無:作話
  3.妄想・幻覚の有無
  4.失認の有無:視覚・聴覚・身体・触覚

T-1.患者周囲の刺激を少なくする
  2.患者が恐れを抱いた時は安全について保証を示し患者を安心させる
  3.患者が懐疑的な考えを伝えてきたら理性を弁えた疑念を表出する。
    他人に対して執拗な疑いを持つことは患者へのマイナス影響を与えるということを説明する
  4.患者が不正確に知覚した発言がみられた時は否定し、実際に存在する状況を正しく話す
  5.患者の周囲に親しみのある物を置く(患者が元気な時から使用していた物等)
  6.時計、カレンダー、毎日のスケジュール等、現実の見当識を維持する物を側に置く
  7.患者と会話する時は面と向かい簡単な説明で関わる。耳元で話さない
  8.患者が間違った考えにふけらないようにする。この状況が始まった時は実際の人と現実の出来事について患者と話し
    現実感を与える
  9.暴力の意図が感じられる妄想の時は患者の言動を密に観察していく
  10.術後であればカテーテルやDIV等ドレーン類を抜去する場合があるので抑制帯等考慮する

E-1.患者のおかれた現実と周囲の事柄について正しい見当識が持てるように説明する
  2.家族や援助する人へ患者に時間・人・場所・環境等の見当識が持てるよう指導する
  3.思考と行動が適切である時、また患者が現実に基づいた考えを表現した時は肯定的な支持をしていく

#3.精神症状による自傷、他害、器物破損行為
   [要因]・衝動の抑制障害
       ・精神運動興奮
       ・判断力の障害
       ・知的能力の低下
       ・理解力の低下
       ・反社会的行為
       ・攻撃性
       ・不安
       ・セルフケア能力の低下

  &自己または他者を傷つけない
  $退院まで

O-1.日常生活行動
  2.他患者との接し方
  3.訴えの内容と行動
  4.興奮の原因を把握する
  5.外傷、身体的異常の有無

T-1.精神症状を観察し、失見当識・困惑の程度を把握する
  2.環境を整備し安全手段を講じる
     1)備品の配置に気を配り、危険物を周囲に置かない
     2)行動の観察を頻回にし、要時付き添う
     3)痙攣のある患者には特に安全面に配慮し、ベッド柵にクッションをつける等予防措置をとる
     4)極端な多動行動が見られる時は、患者の保護のため医師の指示で抑制と精神安定剤を使用し、心身ともに安定を図る
  3.患者を常時観察下におくか所在を把握する。夜間は訪室を密にし常に視野に入れる
  4.患者周囲の刺激(照度を落とした照明、単純な室内装飾、低い騒音、人のいない状態等)を最小限にする
  5.患者の側では静かな態度を示す。不必要に患者をびっくりさせるようなことは避け、絶えず安心感と指示を与えていく
  6.現実認知の誤りは割り切った態度で訂正する。患者の誤りを笑ったりせず、他患者がそれを冷やかしている時は注意し、
    患者を刺激しない
  7.不安の程度・増強を示す患者の行動を観察し評価する
  8.看護者は複数で対応する
  9.周囲及び患者自身に危険が及ばないように配慮する
  10.疲労が激しいので、状態に応じて水分と食物の摂取を促す

E-1.将来援助に当たる人に、
     1)患者の不安増強を示す行動、
     2)暴力を起こす前にうまく介入する方法を認識できるよう指導する