妊娠中毒症患者の標準看護計画
妊娠中毒症とは
妊娠中に高血圧、蛋白尿、浮腫の1つもしくは2つ以上の症状がみられ、かつこれらの症状が単なる妊娠偶発症でないもので、妊娠20週以降から産褥6週(分娩後42日)以内に発症したものをいう。
妊娠中毒症とは、上記のように定義され、さらに脳神経症状、痙攣を伴う症候群をいい分娩終了とともに治癒または軽快するが、時にはその中の幾つかの症状が後遺症として残ることがある。原因や本態はなお明らかでないが、母体免疫防御機構の異常から起こる胎盤血流供給不全の結果、多臓器の血管系や血液に異常をきたし、母体高血圧、浮腫を生じると推察されているが、現在では"末梢血管の攣縮による高血圧"が病態論の主流となっている。
分類
妊娠中毒症の病型を純粋型と混合型に大別する。なお、純粋型、混合型にかかわらず痙攣発作を伴うものは子癇とする。
純粋型妊娠中毒症
妊娠偶発合併症の存在によるとは推定しえず、妊娠20週から産褥期(分娩後42日間)までの期間にのみ高血圧・蛋白尿・浮腫などの症状を呈する場合をいう。
混合型妊娠中毒症
妊娠前より高血圧・蛋白尿・浮腫などの症状を呈する疾患あるいは状態の存在が推定され、妊娠によって症状の増悪あるいは顕症化をみた場合をいい、純粋型妊娠中毒症に該当しないものすべてをこれに含める。
子癇
妊娠中毒症によって起こった痙攣発作をいう。てんかん、脳出血、脳腫瘍などのような他疾患による痙攣発作を除外する。痙攣発作の発症時期により、妊娠子癇、分娩子癇、産褥子癇とし、分娩期、産褥期とに痙攣発作がまたがった場合は分娩産褥子癇とする。
HELLP症候群
溶血(hemolysis)、肝機能障害(elevated liver enzyme)、血小板減少(low platelet)を伴い、重症妊娠中毒症として取り扱う。
アセスメントの視点
妊娠中毒症は、重症では腎機能障害、肝機能障害、血液凝固異常(慢性DIC状態)、眼症状では網膜剥離、視野狭窄などをきたす場合がある。疾患として、最も顕著なのは血管の拘縮である。肝は腫大し、実質の混濁・脂肪変性などの退行変性と、広汎な出血性および貧血性壊死をみる。腎は糸球体の変化が著明で、毛細管基底膜の浮腫状肥厚と線維素沈着がみられる。脳には浮腫と腫脹、ときには点状溢血がみられる。眼底には血管の変化や出血、浮腫などがみられる。肺にはしばしば水腫と出血がみられる。胎盤には、白色梗塞・血腫・脱落膜出血があり、絨毛の周囲に類線維素沈着がみられる。また、妊娠中毒症の影響を受けて妊娠中毒症肺水腫・常位胎盤早期剥離・中毒症性脳出血などの異常が発生あるいは増悪することがある。治療は対症療法を行なうのみとなるため予防、早期発見が大切である。
胎児では、胎児胎盤機能不全から子宮内胎児発育不全(IUGR)による未熟児出産、胎児仮死あるいは胎児死亡をみることもある。子癇の場合、胎児の予後は不良で、死亡率は30%といわれている。児が未熟なこと、anoxiaになること、急速遂娩術などのためである。
症状
・多くは体重増加に始まり、浮腫・高血圧・蛋白尿がみられる。単独または複数で出現する。
・重症では、以下の症状が出現することがある。
尿量減少
脳神経症状(頭痛、めまい、耳鳴、不眠など)
眼症状(眼華閃発、弱視、視野暗黒、網膜剥離、視野狭窄など)
消化器症状(悪心、嘔吐、胃痛など)
・子癇は、音、光、疼痛、精神的刺激が発作の誘因となる。突然に強直性、ついで間代性の痙攣発作をきたし、意識消失を伴う。
検査
・体重・血圧
・尿量・尿比重・尿蛋白定量(エスバッハ)
・腎機能検査
・肝機能検査
・血液凝固系検査
・眼底検査
・胸部X-P
・心エコ-・心電図
・頭部CT
・超音波断層
胎児管理
・胎児発育曲線
・胎児心拍モニタリング(NST,CST)
・子宮胎盤胎児血流測定
・羊水量の測定
・胎児血採取
・胎児音振動刺激試験
・生化学的検査(E3、hPL)
治療
1.安静
2.食事療法
食事療法の基本は、減塩・高蛋白・カロリ-制限である。
3.薬物療法
看護計画
Ⅰ.アセスメントの視点
妊娠中毒症が重症化すると、子癇、HELLP症候群、妊娠中毒症肺水腫、常位胎盤早期剥離、中毒症性脳出血など、生命の危険につながるので、重症化を防ぐため、安静、食事指導、全身状態の管理などが大切になってくる。また、予防と早期対処が後遺症を残さないためにも大切であり、妊婦健診でのチェック、保健指導が重要である。
妊娠中毒症の悪化による胎児への影響が大きいため、胎児管理が重要であり、母親の胎児に対する不安も大きいので、精神的サポ-トが必要である。
分娩までの長期入院となる場合が多いので、生活行動や精神面への影響を把握することが大切である。
Ⅱ.問題リスト
#1.疾患、治療の知識不足に関連した不安
〔要因〕・疾患そのものへの恐れ
・治療そのものへの不安
・疾患、検査や治療に対する情報不足
・入院という慣れない環境
・入院の長期化
・家庭での役割欠如
・社会的役割が果たせない
・未熟児出産への恐れ
#2.疾患、治療による苦痛
〔要因〕・浮腫-体液の循環不全、体液の貯留
・倦怠感、疾患からくる精神的苦痛
・睡眠障害
・安静、行動制限
・食事制限
・検査による苦痛
#3.胎児発育遅延の可能性
〔要因〕・胎盤機能の低下
・胎児のガス交換の障害
#4.浮腫
〔要因〕・正常から逸脱した体重増加
・水分、ナトリウムの過剰摂取
・体液の循環不全
#5.組織循環の変調
〔要因〕・腎臓の血液量の減少、水分排泄能の障害
・腎臓の血管攣縮による機能的変化
・毛細血管および小血管の攣縮
・浮腫、高血圧の悪化
#6.合併症の危険性:子癇、HELLP症候群
〔要因〕・中毒症状の悪化
・腎機能障害
・肝機能障害
#7.行動制限に関連した心身の苦痛と筋力低下の可能性
〔要因〕・安静を強いられ、ADLが自分で十分に行なえない
・運動量の低下
・精神的苦痛
・家族とのコミュニケ-ション不足
#8.入院により家庭生活における役割行動が果たせないことに関連した葛藤とスト
レス
〔要因〕・入院
・家族のサポ-ト状況
・家族の現状の受けとめ状況
・子供の年齢
Ⅲ.看護目標
1.疾患に対する不安が軽減でき、治療に向けて前向きに考えられる
2.妊娠中毒症の症状が軽減し、合併症が予防できる
3.胎児の発育・成長が順調である
4.治療による心身の苦痛が軽減できる
5.役割行動の変容が理解でき、家族と共に対処行動がとれる
Ⅳ.看護問題
#1.疾患、治療に対する不安
〔要因〕・疾患そのものへの恐れ
・治療そのものへの不安
・疾患、検査や治療に対する情報不足
・入院という慣れない環境
・入院の長期化
・役割行動が果たせない
・未熟児出産への恐れ
&検査、治療の必要性が理解でき、納得できたことを言葉で表現できる
検査、治療に積極的に参加できる(安静や食事が守れる)
患者の思いや不安を言葉で表現できる
$分娩まで
O-1.入院への適応状況
2.疾患、検査、治療に関する患者の情報量とその理解度
3.表情、言語、態度、行動の表出状況と不安の程度の関係
4.身体症状の有無と程度
5.食欲、食事摂取状況
6.睡眠状況
7.胎児に対するイメ-ジ
8.未熟児出産に対するイメージ
9.性格傾向とこれまでに経験した危機的状態での対処方法
10.役割の欠如(妻、母親としての)に対する受止め方
11.相談できる人の有無、サポ-トシステムの状況
12.夫、家族の疾患に対する理解度
13.夫、家族の患者に対する理解度
T-1.検査結果、治療の効果、妊娠の経過、胎児の状態について医師から十分説明を受けることができるように配慮する
2.患者が自分自身のことを医療者に語りかけられるような雰囲気をつくる
3.患者、家族の訴えをよく聴き、自己表出ができるように受容的態度で接する
4.患者、家族の様々な問いかけに対して丁寧に対応し信頼関係の確立に努める
5.静かで休息のとれる環境をつくる
E-1.妊娠中毒症についての理解度を確認し、不足があれば補う
2.胎児の発育、成長の過程を説明し、心理面の支えを十分に行う
3.胎児の発育、成長の過程を患者、夫、家族が共に喜び合えるような環境づくりをする
#2.疾患、治療による苦痛
〔要因〕・浮腫-体液の循環不全、体液の貯留
・倦怠感、疾患からくる精神的苦痛
・睡眠障害
・安静、行動制限
・食事制限
・検査による苦痛
&身体的、精神的苦痛を最小限にとどめられる
$退院まで
O-1.同一体位による痛みの部位の有無と程度
2.浮腫の有無と程度
3.睡眠障害の有無
4.安静、行動制限に伴う無気力、思考力の低下、集中力の低下などの症状
5.ADL、セルフケアの制限の程度
T-1.腹部の緊張を和らげる
2.安楽な体位を工夫する
3.苦痛、気持ちが表出できるように働きかける
4.必要に応じてセルフケア不足を補う
5.降圧剤、利尿剤、アルブミン製剤の正確な与薬
E-1.入院生活による苦痛が少しでも軽減するように気分転換の方法を指導する
#3.胎児発育遅延の可能性
〔要因〕・胎盤機能の低下
・胎児のガス交換の障害
&子宮内環境が良好に保たれる
胎児の発育、成長が順調である
$分娩まで
O-1.ノンストレステスト(NST)
2.尿中E3(エストリオール)
3.超音波による胎児発育状態
4.胎動の有無と程度、頻度
5.ドップラ-による胎児心音の状態
T-1.NSTにより胎児の異常の早期発見に努める
2.安静保持
3.環境の調整を図る
4.患者、夫、家族に、現在の状態について説明する。
E-1.医師の説明で理解不足の内容があれば追加説明し、積極的に治療に参加するよう働きかける
2.胎動の減弱、腹部緊張の増強、性器出血、破水時には、すぐに医療者に伝えるように指導する
#4.浮腫
〔要因〕・正常から逸脱した体重増加
・水分、ナトリウムの過剰摂取
・体液の循環不全
&水分出納のバランスがとれている
浮腫が消失する
倦怠感がない
$退院まで
O-1.体重増加の程度
2.全身浮腫、局所浮腫の有無と程度
3.intake,outputのバランス
4.腹囲の増加の程度
5.食事摂取状況
T-1.体重測定を毎日実施
2.24時間蓄尿
3.減塩、高蛋白、カロリー制限食とし、それ以外は摂取しないよう指導する
4.安静保持
E-1.治療食の必要性を説明する
2.安静の必要性を説明する
#5.組織循環の変調
〔要因〕・腎臓の血液量の減少、水分排泄能の障害
・腎臓の血管攣縮による機能的変化
・毛細血管および小血管の攣縮
・浮腫、高血圧の悪化
&バイタルサインが正常範囲に保たれる
血圧がコントロ-ルできる
$退院まで
O-1.血圧の日内変動の有無と程度
2.血圧上昇時の随伴症状(頭痛、頭重感、肩こり、眼華閃発など)の有無と程度
3.intake,outputのバランス
4.排尿状態
5.尿比重、尿蛋白定量、尿中クレアチニン値の程度
6.不安、不穏状態の有無、程度
T-1.安静保持
2.清潔保持(陰部洗浄を含む)
3.気分転換を図る
4.夫、家族、友人のサポ-トシステムを調整し、患者が安心して入院生活が過ごせるよう協力する
5.必要時、面会を制限する
E-1.安静の保持、食事療法が胎児の成長、発育に対して重要であることについて説明する
#6.合併症の危険性:子癇、HELLP症候群
〔要因〕・妊娠中毒症の症状悪化
・腎機能障害
・肝機能障害
&血圧が正常範囲となる
子癇を起こさない
意識レベルが正常である
$症状が軽症になるまで
O-1.子癇の要因となる高血圧、蛋白尿、浮腫の有無と程度
2.痙攣発作の有無、程度、種類と意識レベルの程度
3.血液データーの把握
T-1.採光、騒音に注意し、環境を整える(暗幕の設置)
2.面会者を制限する
3.重要他者への協力を依頼する
4.ベット柵をつける
5.安楽な体位を工夫する
6.患者の周囲にある危険物を取り除く
7.緊急時の準備
E-1.安静が保持できるように指導する
2.胎動、腹部緊張、腹痛などの異常を感じたらすぐに医療者に伝えるよう指導する
#7.行動制限に関連した心身の苦痛と筋力低下の可能性
〔要因〕・安静を強いられ、ADLが自分で十分に行なえない
・運動量の低下
・精神的苦痛
・家族とのコミュニケ-ション不足
&ストレスの表出ができ、苦痛を最小限にする
筋力の低下を最小限にし、分娩・産褥のトラブルを予防する
$安静解除となるまで
O-1.言動、表情
2.睡眠状態
3.食欲の有無、食事摂取量
4.排泄状態
5.安静が守られているか
6.四肢の筋力低下の有無
7.分娩への意欲の有無
8.同室者とのコミュニケ-ション状態
9.全身の清潔状態
10.帯下、出血による外陰部の汚染状態
11.便秘の有無
12.その他苦痛の訴え
T-1.安楽な体位の工夫(ギャッジアップ、安楽枕、電動ベットの使用等)
2.環境の整備(休息がとれるような環境をつくる)
絶対安静の場合、手の届く位置へ必要なものを配置する
排泄物はすぐ片付けるよう心掛ける
できるだけ窓際のベットにする
3.筋力低下の予防のトレ-ニング実施
4.便通のコントロ-ル
5.全身の清潔保持(特に外陰部)
6.食事の工夫(おにぎり食等)
7.コミュニケ-ションの充実
8.身体的な苦痛を聞き、対応する
9.個別の日常生活の把握
10.個別的なストレス因子について把握する
11.キ-パ-ソンの把握
E-1.安静の必要性を認識させる
2.ベットサイドでの筋力低下予防運動の必要性を説明し指導する
異常時は中止するよう説明する
3.分娩時の体力の消耗を最小限にするために特にリラックス法、呼吸法の練習が必要なことを説明し、指導する
#8.入院により家庭生活における役割行動が果たせないことに関連した葛藤とストレス
〔要因〕・入院
・家族のサポ-ト状況
・家族の現状の受けとめ状況
・子供の年齢
&役割行動の変容を理解でき、対処行動がとれる
$入院中
O-1.言動、表情、精神状態
2.不安の訴え
3.家族の面会状況
T-1.面会時間の配慮
2.不安を傾聴受容し、一貫した態度で接する
訴えをよく聞き対応する
心の支えとなる家族の協力を求める(コミュニケ-ションの充実)
E-1.現状について十分に説明する
2.家族を含めて役割機能が果たせるように話しあう
妊娠中毒症とは
妊娠中に高血圧、蛋白尿、浮腫の1つもしくは2つ以上の症状がみられ、かつこれらの症状が単なる妊娠偶発症でないもので、妊娠20週以降から産褥6週(分娩後42日)以内に発症したものをいう。
妊娠中毒症とは、上記のように定義され、さらに脳神経症状、痙攣を伴う症候群をいい分娩終了とともに治癒または軽快するが、時にはその中の幾つかの症状が後遺症として残ることがある。原因や本態はなお明らかでないが、母体免疫防御機構の異常から起こる胎盤血流供給不全の結果、多臓器の血管系や血液に異常をきたし、母体高血圧、浮腫を生じると推察されているが、現在では"末梢血管の攣縮による高血圧"が病態論の主流となっている。
分類
妊娠中毒症の病型を純粋型と混合型に大別する。なお、純粋型、混合型にかかわらず痙攣発作を伴うものは子癇とする。
純粋型妊娠中毒症
妊娠偶発合併症の存在によるとは推定しえず、妊娠20週から産褥期(分娩後42日間)までの期間にのみ高血圧・蛋白尿・浮腫などの症状を呈する場合をいう。
混合型妊娠中毒症
妊娠前より高血圧・蛋白尿・浮腫などの症状を呈する疾患あるいは状態の存在が推定され、妊娠によって症状の増悪あるいは顕症化をみた場合をいい、純粋型妊娠中毒症に該当しないものすべてをこれに含める。
子癇
妊娠中毒症によって起こった痙攣発作をいう。てんかん、脳出血、脳腫瘍などのような他疾患による痙攣発作を除外する。痙攣発作の発症時期により、妊娠子癇、分娩子癇、産褥子癇とし、分娩期、産褥期とに痙攣発作がまたがった場合は分娩産褥子癇とする。
HELLP症候群
溶血(hemolysis)、肝機能障害(elevated liver enzyme)、血小板減少(low platelet)を伴い、重症妊娠中毒症として取り扱う。
アセスメントの視点
妊娠中毒症は、重症では腎機能障害、肝機能障害、血液凝固異常(慢性DIC状態)、眼症状では網膜剥離、視野狭窄などをきたす場合がある。疾患として、最も顕著なのは血管の拘縮である。肝は腫大し、実質の混濁・脂肪変性などの退行変性と、広汎な出血性および貧血性壊死をみる。腎は糸球体の変化が著明で、毛細管基底膜の浮腫状肥厚と線維素沈着がみられる。脳には浮腫と腫脹、ときには点状溢血がみられる。眼底には血管の変化や出血、浮腫などがみられる。肺にはしばしば水腫と出血がみられる。胎盤には、白色梗塞・血腫・脱落膜出血があり、絨毛の周囲に類線維素沈着がみられる。また、妊娠中毒症の影響を受けて妊娠中毒症肺水腫・常位胎盤早期剥離・中毒症性脳出血などの異常が発生あるいは増悪することがある。治療は対症療法を行なうのみとなるため予防、早期発見が大切である。
胎児では、胎児胎盤機能不全から子宮内胎児発育不全(IUGR)による未熟児出産、胎児仮死あるいは胎児死亡をみることもある。子癇の場合、胎児の予後は不良で、死亡率は30%といわれている。児が未熟なこと、anoxiaになること、急速遂娩術などのためである。
症状
・多くは体重増加に始まり、浮腫・高血圧・蛋白尿がみられる。単独または複数で出現する。
・重症では、以下の症状が出現することがある。
尿量減少
脳神経症状(頭痛、めまい、耳鳴、不眠など)
眼症状(眼華閃発、弱視、視野暗黒、網膜剥離、視野狭窄など)
消化器症状(悪心、嘔吐、胃痛など)
・子癇は、音、光、疼痛、精神的刺激が発作の誘因となる。突然に強直性、ついで間代性の痙攣発作をきたし、意識消失を伴う。
検査
・体重・血圧
・尿量・尿比重・尿蛋白定量(エスバッハ)
・腎機能検査
・肝機能検査
・血液凝固系検査
・眼底検査
・胸部X-P
・心エコ-・心電図
・頭部CT
・超音波断層
胎児管理
・胎児発育曲線
・胎児心拍モニタリング(NST,CST)
・子宮胎盤胎児血流測定
・羊水量の測定
・胎児血採取
・胎児音振動刺激試験
・生化学的検査(E3、hPL)
治療
1.安静
2.食事療法
食事療法の基本は、減塩・高蛋白・カロリ-制限である。
3.薬物療法
看護計画
Ⅰ.アセスメントの視点
妊娠中毒症が重症化すると、子癇、HELLP症候群、妊娠中毒症肺水腫、常位胎盤早期剥離、中毒症性脳出血など、生命の危険につながるので、重症化を防ぐため、安静、食事指導、全身状態の管理などが大切になってくる。また、予防と早期対処が後遺症を残さないためにも大切であり、妊婦健診でのチェック、保健指導が重要である。
妊娠中毒症の悪化による胎児への影響が大きいため、胎児管理が重要であり、母親の胎児に対する不安も大きいので、精神的サポ-トが必要である。
分娩までの長期入院となる場合が多いので、生活行動や精神面への影響を把握することが大切である。
Ⅱ.問題リスト
#1.疾患、治療の知識不足に関連した不安
〔要因〕・疾患そのものへの恐れ
・治療そのものへの不安
・疾患、検査や治療に対する情報不足
・入院という慣れない環境
・入院の長期化
・家庭での役割欠如
・社会的役割が果たせない
・未熟児出産への恐れ
#2.疾患、治療による苦痛
〔要因〕・浮腫-体液の循環不全、体液の貯留
・倦怠感、疾患からくる精神的苦痛
・睡眠障害
・安静、行動制限
・食事制限
・検査による苦痛
#3.胎児発育遅延の可能性
〔要因〕・胎盤機能の低下
・胎児のガス交換の障害
#4.浮腫
〔要因〕・正常から逸脱した体重増加
・水分、ナトリウムの過剰摂取
・体液の循環不全
#5.組織循環の変調
〔要因〕・腎臓の血液量の減少、水分排泄能の障害
・腎臓の血管攣縮による機能的変化
・毛細血管および小血管の攣縮
・浮腫、高血圧の悪化
#6.合併症の危険性:子癇、HELLP症候群
〔要因〕・中毒症状の悪化
・腎機能障害
・肝機能障害
#7.行動制限に関連した心身の苦痛と筋力低下の可能性
〔要因〕・安静を強いられ、ADLが自分で十分に行なえない
・運動量の低下
・精神的苦痛
・家族とのコミュニケ-ション不足
#8.入院により家庭生活における役割行動が果たせないことに関連した葛藤とスト
レス
〔要因〕・入院
・家族のサポ-ト状況
・家族の現状の受けとめ状況
・子供の年齢
Ⅲ.看護目標
1.疾患に対する不安が軽減でき、治療に向けて前向きに考えられる
2.妊娠中毒症の症状が軽減し、合併症が予防できる
3.胎児の発育・成長が順調である
4.治療による心身の苦痛が軽減できる
5.役割行動の変容が理解でき、家族と共に対処行動がとれる
Ⅳ.看護問題
#1.疾患、治療に対する不安
〔要因〕・疾患そのものへの恐れ
・治療そのものへの不安
・疾患、検査や治療に対する情報不足
・入院という慣れない環境
・入院の長期化
・役割行動が果たせない
・未熟児出産への恐れ
&検査、治療の必要性が理解でき、納得できたことを言葉で表現できる
検査、治療に積極的に参加できる(安静や食事が守れる)
患者の思いや不安を言葉で表現できる
$分娩まで
O-1.入院への適応状況
2.疾患、検査、治療に関する患者の情報量とその理解度
3.表情、言語、態度、行動の表出状況と不安の程度の関係
4.身体症状の有無と程度
5.食欲、食事摂取状況
6.睡眠状況
7.胎児に対するイメ-ジ
8.未熟児出産に対するイメージ
9.性格傾向とこれまでに経験した危機的状態での対処方法
10.役割の欠如(妻、母親としての)に対する受止め方
11.相談できる人の有無、サポ-トシステムの状況
12.夫、家族の疾患に対する理解度
13.夫、家族の患者に対する理解度
T-1.検査結果、治療の効果、妊娠の経過、胎児の状態について医師から十分説明を受けることができるように配慮する
2.患者が自分自身のことを医療者に語りかけられるような雰囲気をつくる
3.患者、家族の訴えをよく聴き、自己表出ができるように受容的態度で接する
4.患者、家族の様々な問いかけに対して丁寧に対応し信頼関係の確立に努める
5.静かで休息のとれる環境をつくる
E-1.妊娠中毒症についての理解度を確認し、不足があれば補う
2.胎児の発育、成長の過程を説明し、心理面の支えを十分に行う
3.胎児の発育、成長の過程を患者、夫、家族が共に喜び合えるような環境づくりをする
#2.疾患、治療による苦痛
〔要因〕・浮腫-体液の循環不全、体液の貯留
・倦怠感、疾患からくる精神的苦痛
・睡眠障害
・安静、行動制限
・食事制限
・検査による苦痛
&身体的、精神的苦痛を最小限にとどめられる
$退院まで
O-1.同一体位による痛みの部位の有無と程度
2.浮腫の有無と程度
3.睡眠障害の有無
4.安静、行動制限に伴う無気力、思考力の低下、集中力の低下などの症状
5.ADL、セルフケアの制限の程度
T-1.腹部の緊張を和らげる
2.安楽な体位を工夫する
3.苦痛、気持ちが表出できるように働きかける
4.必要に応じてセルフケア不足を補う
5.降圧剤、利尿剤、アルブミン製剤の正確な与薬
E-1.入院生活による苦痛が少しでも軽減するように気分転換の方法を指導する
#3.胎児発育遅延の可能性
〔要因〕・胎盤機能の低下
・胎児のガス交換の障害
&子宮内環境が良好に保たれる
胎児の発育、成長が順調である
$分娩まで
O-1.ノンストレステスト(NST)
2.尿中E3(エストリオール)
3.超音波による胎児発育状態
4.胎動の有無と程度、頻度
5.ドップラ-による胎児心音の状態
T-1.NSTにより胎児の異常の早期発見に努める
2.安静保持
3.環境の調整を図る
4.患者、夫、家族に、現在の状態について説明する。
E-1.医師の説明で理解不足の内容があれば追加説明し、積極的に治療に参加するよう働きかける
2.胎動の減弱、腹部緊張の増強、性器出血、破水時には、すぐに医療者に伝えるように指導する
#4.浮腫
〔要因〕・正常から逸脱した体重増加
・水分、ナトリウムの過剰摂取
・体液の循環不全
&水分出納のバランスがとれている
浮腫が消失する
倦怠感がない
$退院まで
O-1.体重増加の程度
2.全身浮腫、局所浮腫の有無と程度
3.intake,outputのバランス
4.腹囲の増加の程度
5.食事摂取状況
T-1.体重測定を毎日実施
2.24時間蓄尿
3.減塩、高蛋白、カロリー制限食とし、それ以外は摂取しないよう指導する
4.安静保持
E-1.治療食の必要性を説明する
2.安静の必要性を説明する
#5.組織循環の変調
〔要因〕・腎臓の血液量の減少、水分排泄能の障害
・腎臓の血管攣縮による機能的変化
・毛細血管および小血管の攣縮
・浮腫、高血圧の悪化
&バイタルサインが正常範囲に保たれる
血圧がコントロ-ルできる
$退院まで
O-1.血圧の日内変動の有無と程度
2.血圧上昇時の随伴症状(頭痛、頭重感、肩こり、眼華閃発など)の有無と程度
3.intake,outputのバランス
4.排尿状態
5.尿比重、尿蛋白定量、尿中クレアチニン値の程度
6.不安、不穏状態の有無、程度
T-1.安静保持
2.清潔保持(陰部洗浄を含む)
3.気分転換を図る
4.夫、家族、友人のサポ-トシステムを調整し、患者が安心して入院生活が過ごせるよう協力する
5.必要時、面会を制限する
E-1.安静の保持、食事療法が胎児の成長、発育に対して重要であることについて説明する
#6.合併症の危険性:子癇、HELLP症候群
〔要因〕・妊娠中毒症の症状悪化
・腎機能障害
・肝機能障害
&血圧が正常範囲となる
子癇を起こさない
意識レベルが正常である
$症状が軽症になるまで
O-1.子癇の要因となる高血圧、蛋白尿、浮腫の有無と程度
2.痙攣発作の有無、程度、種類と意識レベルの程度
3.血液データーの把握
T-1.採光、騒音に注意し、環境を整える(暗幕の設置)
2.面会者を制限する
3.重要他者への協力を依頼する
4.ベット柵をつける
5.安楽な体位を工夫する
6.患者の周囲にある危険物を取り除く
7.緊急時の準備
E-1.安静が保持できるように指導する
2.胎動、腹部緊張、腹痛などの異常を感じたらすぐに医療者に伝えるよう指導する
#7.行動制限に関連した心身の苦痛と筋力低下の可能性
〔要因〕・安静を強いられ、ADLが自分で十分に行なえない
・運動量の低下
・精神的苦痛
・家族とのコミュニケ-ション不足
&ストレスの表出ができ、苦痛を最小限にする
筋力の低下を最小限にし、分娩・産褥のトラブルを予防する
$安静解除となるまで
O-1.言動、表情
2.睡眠状態
3.食欲の有無、食事摂取量
4.排泄状態
5.安静が守られているか
6.四肢の筋力低下の有無
7.分娩への意欲の有無
8.同室者とのコミュニケ-ション状態
9.全身の清潔状態
10.帯下、出血による外陰部の汚染状態
11.便秘の有無
12.その他苦痛の訴え
T-1.安楽な体位の工夫(ギャッジアップ、安楽枕、電動ベットの使用等)
2.環境の整備(休息がとれるような環境をつくる)
絶対安静の場合、手の届く位置へ必要なものを配置する
排泄物はすぐ片付けるよう心掛ける
できるだけ窓際のベットにする
3.筋力低下の予防のトレ-ニング実施
4.便通のコントロ-ル
5.全身の清潔保持(特に外陰部)
6.食事の工夫(おにぎり食等)
7.コミュニケ-ションの充実
8.身体的な苦痛を聞き、対応する
9.個別の日常生活の把握
10.個別的なストレス因子について把握する
11.キ-パ-ソンの把握
E-1.安静の必要性を認識させる
2.ベットサイドでの筋力低下予防運動の必要性を説明し指導する
異常時は中止するよう説明する
3.分娩時の体力の消耗を最小限にするために特にリラックス法、呼吸法の練習が必要なことを説明し、指導する
#8.入院により家庭生活における役割行動が果たせないことに関連した葛藤とストレス
〔要因〕・入院
・家族のサポ-ト状況
・家族の現状の受けとめ状況
・子供の年齢
&役割行動の変容を理解でき、対処行動がとれる
$入院中
O-1.言動、表情、精神状態
2.不安の訴え
3.家族の面会状況
T-1.面会時間の配慮
2.不安を傾聴受容し、一貫した態度で接する
訴えをよく聞き対応する
心の支えとなる家族の協力を求める(コミュニケ-ションの充実)
E-1.現状について十分に説明する
2.家族を含めて役割機能が果たせるように話しあう