すぽんさーどりんく

すぽんさーどりんく

放射線療法をうける食道癌患者の看護計画


 根治照射の適応として、組織型が扁平上皮癌か未分化癌であること、遠隔転移がないこと、腫瘍の大きさが9cm以下であること、隣接臓器に浸潤がないこと、患者の全身状態が良好で照射に耐えられ、比較的早期の症例とされているが、食道癌の治療法の第一選択は手術療法とされているので、放射線治療が行なわれる食道癌症例は、切除不能進行癌や高齢、重篤な合併症のため手術不適とされたものが多い(姑息的照射)。また、人口の高齢化に伴い、手術不適の高齢の症例の増加が予想されるので適応例となってくると考えられる。
 術前・術後照射、照射と化学療法を併用する場合もある。

 腫瘍陰影5cm以下では比較的治療成績は良い。形の上では腫瘤型や鋸歯型つまり非全周性のものの治癒率が良い。Borrman分類では、BorrmanⅠ型が放射線治療でもっともよく効き、型と順に効きめが悪くなって型ではほとんど効果はみられない。

 一般には固定法を用いる。正常な食道、肺、心臓、脊髄などへの悪影響を防ぐために、通常、前後対向2門照射が用いられるが、その他として、多門照射および回転照射も行われる。縦隔を含めて照射する場合は前後対向2門で行い、4446Gyの時点で脊髄を外すために方向を変更する。この場合斜入対向2門照射をしばしば用いる。

 はじめは原発巣およびリンパ節を含めたlarge fild1回線量1.82Gyで週5回行い、4045Gyまで照射し、その後原発巣に縮小し、総線量が6070Gyまで照射する。

 全身的には、全身倦怠感、食欲不振、悪心などの放射線宿酔症状が起こりやすい。放射線宿酔の発生機序は、放射線による化学反応の過程で過酸化物質が多量に発生し、肝臓で処理される。肝臓自体が疲幣に伴い、宿酔症状を呈する。さらに血流中に存在する炎症細胞(白血球)よりヒスタミン系物質の遊離によりアレルギ-性症状を呈することで症状が起きる。宿酔症状には、過酸化物質の蓄積とヒスタミン系物質の両者が関与するといわれている。放射線に対する不安感が強い人も起こりやすい。また、胸部照射であるため、造血機能の盛んな胸骨に照射野が入り、放射線の感受性が高い骨髄が影響を受け、骨髄抑制が起こりやすい。一般に放射線療法独自で看護ケアを必要とする骨髄抑制は起こりにくいが、化学療法との併用時に強く出やすい。
 局所的には、照射野の皮膚に、放射線により皮膚の基底細胞が障害をうけ、放射線皮膚炎が30Gyから起こりやすい。食道粘膜では粘膜の基底細胞が放射線により障害を受けて、20Gy前後で食道炎を起こすことがある。症状としては、つかえ感で始まり、ついで疼痛、粘膜炎が高度となり嚥下困難などもおこり、ついには潰瘍や出血に至ることもある。狭窄の強い食道癌では経口摂取が少ないため自覚症状は強くなく、逆に表在癌のように普通に食事ができる場合には食道痛が強いことが多い。放射線治療により腫瘍の急激な壊死にて周辺組織に瘻孔を形成することがある。なかでも気管や大血管への瘻孔形成は致命的となる。また、晩期障害として腫瘍が全周囲性であった場合、腫瘍組織の瘢痕線維化のために食道狭窄を起こすこともある。



.アセスメントの視点
 原疾患による症状とは別に照射により放射線食道炎を起こしやすい。放射線食道炎では、食道炎症状の把握を行う。症状が強度になると食事摂取量の低下により低栄養状態、脱水をきたすことになるので、疼痛、食事量、倦怠感などの自覚症状とあわせて、体重の変化や血液デ-タにも着目し、患者の食に対する思い、食べれないことに対するストレスの把握を行う。また、放射線治療により気管や大血管に瘻孔形成した場合、大出血や肺炎の可能性がある。照射野に胸骨が含まれている場合、骨髄抑制をおこし易感染状態に陥りやすい。特に化学療法を併用する場合は注意が必要。
 また、初めて放射線治療を受ける患者は、放射線に対して誤解と偏見に満ちたものであることも少なくない。そのため、治療に対して不安や恐怖をもつ。治療に対する思いや不安を早期に把握することが大切である。さらに治療が進むにつれて、副作用出現に対する不安をもちやすいので、不安の把握や不安に起因する身体症状の観察も行っていく。
 さらに放射線療法が終了しても、放射線の影響や再発に対して不安をもつことがあるので、患者や家族のこれからに対する思いの把握を行う。

.問題リスト
   [要因]・疾患への不安
       ・放射線治療そのものに対する不安
       ・放射線治療の副作用に対する不安
       ・入院という慣れない環境
       ・入院により社会的役割が果たせない
       ・治療後や退院後予期的不安

   [要因]・放射線宿酔症状
       ・骨髄抑制による易感染と出血傾向
       ・照射野の皮膚に放射線皮膚炎
       ・放射線食道炎
       ・瘻孔の形成
       ・食道狭窄などの晩期障害

   [要因]・疾患への不安
       ・放射線治療そのものに対する不安
       ・放射線治療の副作用に対する不安
       ・患者の予後や経済面への不安
       ・家族内の役割の変化(サポ-トシステムの不足)
       ・患者と家族間の人間関係(コミュニケ-ション)

.看護目標
  1. 疾患、放射線治療に対する不安が軽減され、心身ともに安定した状態で放射線治療を受けることができる
  2. 放射線療法による副作用を早期に対処し、最後まで治療を受けることができる
  3. 家族サポ-トを通して患者が支えられる

.看護問題
  &放射線治療の必要性が理解できる
   疾患や治療に対する不安を言葉で表現し、精神的に安定した状態で積極的に治療を受けることができる
  $入院から退院まで

-1.入院への適応状況
  2.疾病、治療に関する患者の情報量とその理解度
  3.患者の訴え、表情、言動
  4.食欲、食事摂取状況
  5.睡眠状況
  6.サポ-トシステムの状況
  7.性格
  8.対処行動と対処能力

-1.治療についてわからないことや不安に思うことはなんでも質問してもらう
  2.放射線治療について医師より説明してもらい、理解不足があれば追加説明を行い納得した状態で治療をうけられるようにする
  3.医師より患者にムンテラした内容について、看護婦間に周知し、言動の統一を図る
  4.精神的に不安定になっているので、会話には細心の注意を払う
  5.家族の支援が得られるよう必要時参加を求める
  6.不安を表出できるようにするため以下のケアをする
     1)患者や家族の訴えをよく聞き、受容的態度で接する
     2)不安が表出できるよう患者や家族との信頼関係をつくる
     3)疾患に対する不安は、医師から十分に説明が受けられるようにする
     4)静かで休息のとれる環境をつくる
  7.週末には外泊をすすめるなど気分転換が図れるよう配慮する
-1.患者が治療に対しイメ-ジでき、また副作用の出現に対処できるように、必ず照射前にオリエンテ-ションを行う
  2.副作用については一時的反応であり、個人差があると説明する
  3.分からない点があればいつでも質問するように指導する
   [要因]-1放射線宿酔症状
       -3照射野の皮膚に放射線皮膚炎
       -4放射線食道炎
       -5瘻孔の形成
       -6食道狭窄などの晩期障害
  &宿酔症状を理解でき、言葉で表現できる
   症状出現時、医師や看護婦に報告することができ、適切な処置がうけられる
  $治療開始から終了まで(照射開始後10日前後で消失することが多い)

-1.全身倦怠感
  2.食欲不振
  3.悪心・嘔吐
  4.疲労感
  5.頭重感
  6.めまい
  7.宿酔症状に対する思い・理解度

-1.患者の訴えを十分に聞き、優しい言葉かけをして励ます(一過性のものなので心配ないと励まし、放射線に対して不安があればその内容を明らかにし、不安の軽減に努める)
  2.患者の嗜好を取り入れ、食欲増進を図る
  3.食事時間にこだわらず、食べられる時に食べられるように配慮する
  4.食事量が低下してきた時は、食事内容の変更をする
  5.宿酔症状が強いときは、普段は大丈夫な匂いでも吐き気を催すことがあるので環境にも配慮する
  6.経口摂取が困難な場合は、経管栄養を考慮する
  7.嘔吐があるときは、胃部をク-リングしてみる
  8.医師の指示で制吐剤や補液を投与する

-1.宿酔症状について説明する(治療に対する不安が強い場合は、かえって宿酔症状を強くすることがあるので、患者の状態にあわせて説明する)
  2.治療中は十分な栄養と水分が大切であると説明する
     1)お茶、ジュ-ス、水分を多く含むものなどを十分に摂取すること
     2)高カロリ-、高蛋白食をすすめる(牛乳、乳製品特にチ-ズ、魚肉類の摂取、エンシュアリキッドなど補助食品の摂取)
  3.治療中は体力の消耗を避けるよう指導する
     1)軽い運動(散歩など)にとどめ安静を保つようにする
     2)十分な睡眠をとるようにする
     3)体調がおかしいと感じたらすぐ報告する
  &感染や出血について理解し、言葉で表現できる
   感染予防行動がとれる
   症状出現時、医師や看護婦に報告でき、適切な処置が受けられる
  $治療開始から治療終了まで

-1.バイタルサインチェック
  2.倦怠感
  3.感染症状の有無(悪寒、体熱感、顔面紅潮)
  4.易感染部位の異常の有無(口腔内、陰部、上気道)
  5.出血の有無(口腔内、皮膚、排泄物)
  6.検査デ-タ(血液デ-タ、胸部X-Pなど)

-1.医療者が感染の媒体にならないように感染予防行動を行う
  2.患者が身体的理由で感染予防行動がとれない場合は援助する
  3.骨髄抑制が強い場合は、医師の指示により照射を中止する
    (WBC 1,500/mm3Plt 50,000/mm3
  4.医師の指示により、白血球増多剤や輸血を行う
  5.上気道感染や転倒など起こさないように環境の整備を行う
  6.出血傾向に注意し、採血や注射後、止血の確認をする
  7.WBC低下(1,000/mm3)の時、加熱食への変更

-1.感染症状、出血、倦怠感出現時は医師、看護婦に報告するよう指導する
  2.感染予防に努めるように指導する
     1)皮膚をこすらない
     2)爪はいつも短く切っておく
     3)含嗽、手洗いの励行
     4)人ごみを避ける
     5)必要に応じて面会人の制限
     6)WBC低下時、含嗽やマスクの着用を指導
     7)WBC低下(1,000/mm3)の時、生ものは避ける
  3.出血予防に努めるよう指導する
     1)寝具や保清による皮膚への摩擦・圧迫を避ける
     2)排便コントロ-ルを図り怒責を避ける
     3)Plt低下の時は歯ブラシは使わない
  &放射線皮膚炎を理解し、言葉で表現できる
   放射線皮膚炎に対する予防行動がとれる
   症状出現時医師や看護婦に報告することができ適切な処置が受けられる
  $治療開始から終了後症状が改善するまで

-1.皮膚の状態(前後対向2門での照射が多いため、マ-キングされている皮膚だけではなく背部の観察も行う)
     1)熱感
     2)軽度の発赤、皮膚の乾燥、掻痒感(2030Gy
     3)著名な発赤、疼痛(4050Gy
     4)水泡形成、びらん(6070Gy

-1.照射部位の皮膚の清潔を保つ
  2.照射後、照射部位のク-リングを行う
  3.皮膚炎を起こした時は医師に報告し指示を得る
  4.皮膚炎を起こした時は医師の指示のもと、ステロイドホルモン軟膏を塗布する(照射前にふきとる)
  5.皮膚炎は治療終了すれば回復することを話し、治療が継続できるように励ます

-1.石鹸や薬剤による照射部位の刺激は避ける(入浴は可能だがぬるま湯で流す程度とする)
  2.照射部位を傷付けたり、テ-プ、湿布などは使用しない
  3.照射部位に症状出現時は、勝手にクリ-ムなど使用せず(鉱物の入った軟膏は放射線を乱反射させる)、医師や看護婦に報告する
  4.下着や寝衣は木綿で汗を吸い、肌触りの良いものを使用し、こまめに着替えるようにする
  5.照射部位の日焼けは避ける
  6.爪は短く切っておく
  &放射線食道炎を理解し、言葉で表現できる
   放射線食道炎に対する予防行動がとれる
   症状出現時医師や看護婦に報告することができ、適切な処置を受けることができる
   対処行動がとれ、栄養状態が悪化しない
  $治療開始から終了後症状が改善するまで

-1.嚥下や通過の状態
     1)つかえ感、しみ感、嚥下時痛(2030Gy
     2)食事摂取困難(3040Gy
  2.食事摂取量
  3.体重減少
  4.食事や症状に対する思いの把握

-1.医師の指示にて鎮痛剤や粘膜保護剤を与薬する
  2.嚥下時痛がある時は、刺激が少ない食べやすい食事に変更する
    (お粥、牛乳、シチュ-、エンシュアリキッド)
  3.食べれないこと、痛みなどからくるストレスを十分表出させ、症状は処置や治療の終了で和らいでいくことを説明する
  4.家族に患者の嗜好を取り入れた食べものを差し入れてもらう
  5.必要時医師の指示にて輸液を行う

-1.刺激の強い食品は避ける(熱いもの、固いもの、塩味、酸味の強いもの)
  2.粘膜に張りつく食品は避ける(焼き海苔、細かくした佃煮、そぼろ、わかめ)
  3.捕食は高カロリ-、高たんぱくの食品を選ぶ
  4.食事時間にはこだわらず、食べられるときに食べるよう指導する
  5.よく咀嚼し少量ずつ摂取するよう指導する
  6.できれば喫煙や飲酒はやめる
  &異常の早期発見ができる
   誤嚥性肺炎の可能性について理解し、言葉で表現できる
   誤嚥性肺炎に対する予防行動がとれる
   症状出現時、医師や看護婦に報告でき、適切な処置を受けることができる
  $治療開始から終了後まで

-1.バイタルサインのチェック
  2.嚥下状況
  3.咳、痰
  4.胸部X-P、血液ガス分析、呼吸音
  5.症状に対する思い(絶食時など)

-1.肺炎が疑われる時は、医師の指示により放射線治療を中止する
  2.誤嚥性肺炎が疑われる時は、医師の指示により絶食を行う
  3.絶食の場合など食べれないことに対するストレスを表出させる
  4.食事制限時の輸液の管理

-1.誤嚥しないように注意し、時間をかけてゆっくり食事するように指導する
  2.症状が出現した時は、医師や看護婦に報告するよう説明する
  3.経口摂取中止の必要性を説明する
  &放射線治療による副作用について理解でき、言葉で表現できる
   退院後心身ともに安定した状態で生活がおくれる
   感染の予防行動がとれる
   症状出現時、対処行動がとれる
  $治療開始から退院まで

-1.患者の訴え、表情
  2.副作用症状の有無
  3.症状出現時の対処能力
  4.家族のサポ-ト能力

-1.医師により疾患、放射線治療、治療による副作用の説明を十分に行ってもらうまた、家族にも説明し患者の回復の協力が得られるようにする
  2.医師からの説明で理解不足があれば追加説明を行い、納得した状態で退院できるようにする
  3.疑問や不安を表出しやすいように環境を整える
  4.照射中に起きた副作用は、照射後時間がたてば徐々に良くなることを話す

-1.定期受診を受けるように指導する
  2.身体の調子が何かおかしいと思った場合は、すぐ診察を受けるよう指導する
  3.安静を保持し、疲労を避けるようにし、また睡眠は十分にとれるよう指導する
  4.栄養の補給に努めるよう指導する
  5.感染予防に努めるよう指導する
  6.粘膜の刺激を避けるためできるだけ禁煙、禁酒をすすめる
  7.放射線治療後の粘膜保護のため、また食道狭窄が起こることもあるため以下の食事指導をする
     1)刺激の強い食品は避ける(熱いもの、かたいもの、塩味、酸味の強いもの)
     2)粘膜にはりつく食品は避ける(焼き海苔、細かくした佃煮、そぼろ、わかめ)
     3)よく咀嚼し少量ずつ摂取する
  8.皮膚や粘膜は照射によって萎縮し、薄くなって受傷しやすくなっているので、強い刺激を避け、寒冷にさらさないよう保温に努めるよう指導する

   [要因]疾患への不安
       放射線治療そのものに対する不安
       放射線治療の副作用に対する不安
       患者の予後や経済面への不安
       家族内の役割の変化(サポ-トシステムの不足)
       患者と家族間の人間関係(コミュニケ-ション)

  &家族が不安を表出でき、家族ケア、家族サポ-トを通して患者が支えられる
  $入院から退院まで

-1.家族の表情、言動による表現、態度
  2.家族と患者との人間関係
  3.家族、患者間の疾患の理解・認識の差
  4.家族の放射線治療に対する認識・理解度
  5.家族の放射線治療の副作用に対する認識・理解度
  6.家族間のサポ-トシステム
  7.家族の状況判断能力
  8.経済的問題の存在

-1.家族とコミュニケ-ションをとり、不安や心配事を表出しやすいように受容的態度でかかわる
  2.家族の考えと、医療者の考えの違いがないか、また患者の考えを尊重してかかわる方法について相談し検討する
  3.家族内で起きている問題の対処ができているか、解決困難な時は相談にのり情報提供する
  4.患者の治療状況、副作用について説明する
-1.家族とコミュニケ-ションをとり、また気分転換を図るためにも週末外泊などをすすめる
  2.治療の副作用のため食事摂取量が低下することがあるので、その際は患者の好みに応じたさしいれをするようすすめる
    (放射線食道炎を起こしている場合は、刺激物は避けるよう指導する)
  3.患者とともに家族へも退院時指導を行う

  4.家族に患者のサポ-トの必要性を説明する