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甲状腺機能亢進症患者の標準看護計画-042

甲状腺機能亢進症患者の標準看護計画





甲状腺機能亢進症とは

 甲状腺で過剰に甲状腺ホルモンが生成され、それが血中に分泌されることにより体内の代謝が亢進し、いろいろな臨床症状が生じた状態である。この疾患は糖尿病についで多く、女性は男性の4~5倍かかりやすく、思春期・妊娠時・更年期に多発し、夏季に増悪することが多い。甲状腺機能亢進症を生じる疾患のうち、我が国ではバセドウ病がその90%以上を占める。合併症としてはクリーゼ、悪性眼球突出症、甲状腺中毒症ミオパチー、甲状腺中毒性四肢麻痺、眼球麻痺、重症筋無力症、糖尿病がある。


アセスメントの視点

 適切な医療管理が行われていれば、甲状腺疾患は健康人とほとんど変わることのない生活を送ることができる。しかし治療しても治りにくいのも事実である。その治療は長時間を要することが多く経過も長い。患者がこうした疾患の性質を理解して治療を受け入れ継続するよう支援しなければならない。患者を支えるサポートシステムが確立されていることも治療継続に影響を及ぼすため重要である。


症状

 思春期から中年の女性に多い。主症状として眼球突出、甲状腺腫、心悸亢進があげられ、これをメルゼブルグの3主徴とよんでいる。このほか情緒不安定、手指に振戦、食欲亢進,体重減少、多汗、脱力、発汗、不眠、無月経があげられる。


検査

・ 放射性ヨード摂取率
・ 血中甲状腺ホルモン濃度(T3、T4)
・ 頸部・胸部X線
・ 甲状腺エコー
・ 甲状腺シンチグラフィー


治療

 1.薬物療法
1)抗甲状腺治療剤:
メルカゾール等、確実な内服が大切
2)パルス療法:
ソルメドール(合成副腎皮質ホルモン剤)この治療は集中的に行れるため治療期間は副作用(潰瘍など)の可能性は高いが、治療後においてまで持続することは少ない。
 2.放射線療法
I-131による内部照射
 3.手術療法
全身コントロールとして手術前ルゴールブロック、β遮断薬、ステロイドホルモン剤使用、抗甲状腺剤により基礎代謝率を正常に近づけてから手術へ



看護計画

Ⅰ.アセスメントの視点

 少しの活動でもエネルギーの消費が激しいため全身倦怠感が強く、食摂取してもほとんどが熱エネルギーにかえられるため体重減少、発汗も著しいことから、身体に必要な栄養分,水分不足となりやすく注意が必要。体力保持のためエネルギー消費を最小限にするような日常生活行動も大切となってくる。精神的に集中力の欠落や怒りっぽくなったり情緒の不安定となるため人間関係を保てなくなったり、外見上の変化(甲状腺腫、眼球突出、痩せなど)に対し悩みを持つことが多くサポート状況の把握、確立が必要である。上記に示すような症状は寛解や増悪を繰り返すこともあり、特に外傷、感染、妊娠、手術ストレスなど加わることで状態が悪化し甲状腺クリーゼを併発する可能性もあるため早期発見ができるための観察力が重要となる。


Ⅱ.問題リスト

#1.疾患や症状に対する不安
   〔要因〕・症状そのものへの恐れ
       ・症状からくる精神的苦痛
       ・検査や治療に対する情報不足
       ・病気の兆候(眼球突出、頻脈など)
       ・入院という慣れない環境
       ・社会的役割が果たせない

#2.疾患による苦痛
   〔要因〕・外見上の変化(体の大きさ、体型、顔貌)
       ・疾患そのものの苦痛
       ・自覚症状に伴う苦痛(痩せ、発汗、動悸、不眠)

#3.疾患進行による全身状態悪化
   〔要因〕・甲状腺クリーゼへの進行
       ・脱水による電解質バランスの崩れ
       ・新陳代謝亢進による体力消耗

#4.内服薬(メルカゾール)、パルス療法による副作用出現の予測
   〔要因〕・副作用の出現

#5.家族の不安
   〔要因〕・疾患そのものへの恐れ
       ・患者の予後や経済面への不安
       ・家庭内の役割の変化(サポートシステムの不足)
       ・患者と家族間の人間関係(コミュニケーション)


Ⅲ.看護目標

1. 疾患や症状に対する不安が軽減され安楽な入院生活が送れる
2. 苦痛の軽減が図れ体力消耗が最小限になる
3. 全身状態の悪化の予防と早期発見・対処がされる
4. 内服薬、パルス療法による副作用の予防と早期発見・対処がなされ苦痛が軽減する
5. 家族の精神的慰安がなされる


Ⅳ.看護問題

#1.疾患や症状に対する不安
  &不安が軽減される
  $退院まで

O-1.不安の内容
  2.ムンテラ内容,疾患の理解度
  3.コミュニケーション状況(同室者、医療従事者、家族)
  4.食事摂取量
  5.睡眠状況
  6.表情

T-1.訴えの傾聴
  2.ムンテラ内容の統一
  3.精神的ストレス増すような言動を避け穏やかに接する
  4.コミュニケーションを密にし、信頼関係を築く

E-1.医師の説明で理解不足の内容があれば追加説明し納得し治療が受けれるようにする
  2.不安な状態を表出してもいいことを伝え不明なところは質問するよう促す

#2.疾患による苦痛
  &苦痛が最小限に軽減できる
  $退院まで

O-1.食事摂取量
  2.in-outバランス、体重
  3.皮膚状態、湿潤、発汗
  4.精神状態の有無
  5.睡眠状況
  6.日常生活行動状況(安静状況)
  7.症状の程度
  8.検査データ

T-1.訴えの傾聴
  2.気持ちの休まるような静かな環境作りを心掛ける
  3.清拭と更衣を行い皮膚の保護と清潔を保つ

E-1.体力の消耗を防ぎ、心機能を保持するために安静を指示する
  2.眼球突出に対しては、サングラスをかけることで目立たなくすることができ、また光線や風・塵埃等から眼を保護することができることを説明する

#3.疾患進行のよる全身状態悪化
  &全身状態悪化の予防と早期発見、対処がなされる
  $退院まで

O-1.#2に準ずる
  2.バイタルサイン
  3.意識レベル
  4.消化器症状
  5.心不全徴候
  6.検査データ

T(甲状腺クリーゼとなった場合)
  1.暗くした個室に収容し、精神興奮状態の鎮静を図る
  2.危険の防止に努める
  3.全身の冷却を行い、体温を下降させる
  4.二次感染の予防

E-1.脱水・クリーゼの症状について説明し、異常時すぐ報告するよう指導する
  2.患者の状態や行われる治療についてよく説明する

#4.内服薬、パルス療法による副作用
  &内服薬、パルス療法による副作用の予防と早期発見・対処がなされる
  $治療終了まで

O-1.感染徴候
  2.胃部症状
  3.ムーンフェイス
  4.精神症状

T-1.DIV管理
  2.必要に応じて保清介助を行う

E-1.含嗽・手洗い等の感染予防行動について指導する
2.ステロイドの副作用に関する説明を行い、徴候があればすぐ報告するよう指示する

#5.家族の不安
  &家族ケア・家族サポートをとおして患者が支えられる
  $退院まで

O-1.家族の表情、言語による表現、態度
  2.家族と患者との人間関係
  3.家族、患者間の疾病の理解.認識の差
  4.家族間のサポートシステム
  5.家族の状況判断能力
  6.家族がとらえている患者の性格傾向、コーピング
  7.経済的問題の存在

T-1.家族とのコミュニケーションをとり、不安や心配事を表出しやすいように受容的態度でかかわる
  2.家族の考えと医療者の考え違いがないか、また患者の考えを尊重してかかわる方法について相談し検討する
  3.家庭内で起きている問題の対処ができているか,解決困難な時は相談にのる

E-1.家族が患者の今後についてイメージできるように、入院期間、社会復帰の時期等についての知識を与える
  2.家族に患者のサポートの必要性を説明する