すぽんさーどりんく

すぽんさーどりんく

狭心症患者の標準看護計画




 冠状動脈硬化を基礎に発症する病態で、心筋梗塞と共に虚血性心疾患に分類され、胸痛を主症状とする症候群である。冠状動脈硬化があると動脈の狭窄が起こり、労作時に高まった心筋の酸素消費をまかなうのに必要な酸素を含んだ動脈血が十分に流れない状態になる。その結果、心筋は虚血をきたし痛みが出現する。狭心症の発作は心筋虚血の持続時間が心筋壊死を生じない程度の長さであり、心筋梗塞とは異なり虚血の原因がなくなれば速やかに平常に回復する。



 狭心症は冠状動脈の硬化性狭窄や、一過性の攣縮によって一時的に血流が阻害され心筋の虚血状態をきたすが虚血の原因がなくなれば正常に戻るものである。しかし、この狭心発作を繰り返し起こしたり、症状が悪化すると心筋梗塞への移行も予測される。したがって緊急時の対処や予測される病態と状態の変化を常に念頭において観察する必要がある。
 厚生省「人口動態統計」によれば、心疾患は現在日本の死因の2位となったが今後罹患率は確実に増加することが予想される。その背景には食生活の変化と喫煙人口の増加が考えられる。また虚血性心疾患に罹患しやすいパーソナリティ特性として、タイプA型行動パターンがあげられている。タイプAとは、目的に向かって常に情熱的に自己を駆り立て、仕事や余暇においても常に先を争い時間に追われるタイプをさし、タイプAはタイプBに比べ、虚血性心疾患の発症は2倍以上との報告がある。つまり虚血性心疾患に罹患しないライフスタイルとは、タイプAの行動パターンを避ければよいことになる。またリスクファクター(肥満・高血圧・喫煙・高脂血症・糖尿病)を減らすことが、虚血性心疾患の発生予防の一つの方法と考えられ、発症後の生活指導のためにもこれらの因子を把握しておくことが重要である。患者は入院により日常生活を中断され胸痛や不安に悩まされ、安静を保つことの苦痛や、制限された将来の生活を考えたりして不安な生活にある。こうした状態は治療過程に影響を与えることが考えられるため、個々の状態の時期を確認しながら対応しなければならない。



1.誘因による分類

   労作性狭心症
     労作と関係して発作が起こる場合。
   安静時狭心症
     安静時や睡眠中に発作が起こる場合。
   労作兼安静狭心症(混合型)
     労作時および安静時のいずれも発作が起こる場合。

2.経過による分類

   安定狭心症
     症状および経過の比較的安定しているもの。
   不安定狭心症
     胸痛の頻度が増え、痛みの持続時間が長くなり程度が増悪していくもの。心筋梗塞に移行しやすい。

3.発生機序による分類

   器質性狭心症
     病理学的に冠状動脈に広範かつ高度な動脈硬化性の器質的狭窄があるもの。
   冠攣縮性狭心症
     冠状動脈の強い収縮によって起こるもの。



 主な症状は胸痛であり、胸骨中央部に3分の1ぐらいのところに現れ、しめつけ感、重苦しさ、圧迫感、焼きつけられるような感じなどいろいろな表現で訴えられる。また左顎、左肩、胃部に放散することもあり、さらに顔面蒼白、冷汗、吐き気、息苦しさ、動悸、眩暈などが伴うこともある。痛みは13分までの短い発作を繰り返し、長くても15分以内である。ほとんどが労作時、興奮時、食後などに起こり、特に早朝から午前中の行動を起こし始める時に多い。




  • 心電図検査
  • 胸部X線検査
  • 血液検査
  • ホルターECG
  • 心エコー
  • 運動負荷試験
  • 心臓核医学検査
  • 冠動脈造影法
  • CT
  • MRI



 1.一般療法
冠危険因子の是正
 2.薬物療法
硝酸薬、β遮断薬、Ca拮抗薬
 3.経皮的冠状動脈形成術(PTCA)
バルーンカテーテルにて狭窄部を開大させて狭窄を軽減させる。緊急バイバス術を必要とすることがあり、準備下に施行される。
 4.冠動脈バイパス術
冠状動脈に75%以上の狭窄、または完全閉塞を認め、かつPTCAが不可能の場合施行される。移植血管は内胸動脈、胃大網動脈、大伏在静脈などが用いられる。
 5.大動脈バルーンポンプ法(IABP)
不安定狭心症において発作が重積し、内科的治療無効の症例では緊急時の治療として適応される。


  • 不整脈(心室性期外収縮、心室頻拍、心室細動、心停止、房室ブロック)
  • 失神
  • 左心不全
  • 心原性ショック


 1.胸痛発作時のサポート
 胸痛発作が起こったらまず第一に痛みを軽減する必要がある。しかし入院後の最初の発作に対しては、ECG変化の確認をとる目的ですぐには硝酸薬(ニトロール等)を使用せずにECGをとることがある。この点については、入院時に患者に十分説明して協力を得ておくことが大切である。一方、頻回に発作を繰り返すような場合は痛みとともに死の恐怖や不安感が伴う。このことから痛みを軽減するとともに、そばで励まし平静な態度で援助して安心感を与えるように努める。

 2.安静に関わるサポート
 安静は心臓の負担を軽くし、心筋の酸素消費量を軽減するという目的で重要なことであるが、患者にとっては苦痛となる。発作がないときに定められた安静を守るのは難しく、過度の行動をとってしまいがちで、そのために発作を誘発し心筋梗塞に移行してしまうこともある。安静の必要性について、患者にとって分かりやすい説明を行い、受容できるように働きかけるとともに、許される範囲内での動きを最大限に介助し拘束されたなかにあっても安楽に過ごせるよう援助が必要。
 
3.検査に関わるサポート
 狭心症発作時にECGで虚血性のST変化を記録できれば確定診断を下すことできる。このためモニターやホルターECGが用いられるが、狭心症の自然発作を記録することはなかなか難しく、発作を人為的に誘発させる運動負荷試験が行われる。この場合、強い胸痛や不整脈出現に注意し、ニトロール等の指示薬をすぐ投与できるようにしておく必要がある。また、狭心症薬の内服を中止として検査にのぞむ場合もあるため検査前、中、後の一般状態に十分注意する必要がある。検査に対する不安を最小限とするため患者に対しては、検査目的、方法を十分に説明し、理解を得て行われることが重要である。

 4.リハビリテーション時のサポート
 発作がコントロールされた後は、運動負荷試験、トレッドミル検査等を行った上で運動許容量が決められる。その範囲内での運動を行うことは心負荷となる体重増加やストレスの予防ならびに解消をはかり、冠状動脈の側副血行路を促進するためにも必要であることを説明し、希望をもってリハビリテーションを進めることができるように指導する。




.アセスメントの視点
 個々の発作の誘因、起こり方とその背景にある患者の生活様式を把握する。さらに狭心症を増悪させるような疾患を合併している場合は、どのような治療がなされているのか、また、発病及び入院によって生じる社会的、家庭的役割の変化と患者の身体面・精神面へどのような影響を及ぼしているのかを知る必要がある。そして退院に向けて治療が進められる中で患者自身が病気を理解して、リスクファクターを認識し、再発作を起こさないようにするための自己管理の指導を行い、家族の協力も得られるように援助していかなければならない。


.問題リスト

   〔要因〕・胸痛及び随半症状による身体的苦痛
       ・症状からくる精神的苦痛

   〔要因〕・情報不足

   〔要因〕・発作が頻発、長期持続する等の症状の悪化

   〔要因〕・安静の必要性、日常生活行動おける制限の理解不足
      ・自覚症状がないために負荷をかけてしまう


   〔要因〕・危険因子がある
       ・知識不足
       ・薬物管理ができない
       ・発作時に適切な対処ができない
       ・日常生活行動について自己判断できない



.看護目標
  1. 胸痛発作をおこさず心身の苦痛が軽減できる
  2. 安静を保持することによる苦痛が軽減できる
  3. 再発作および合併症をおこさず症状の悪化をきたさない
  4. 疾患について理解するとともに受容できる
  5. 冠危険因子を認識し再発作予防のための自己管理ができる

.看護問題

   〔要因〕・胸痛及び随半症状による身体的苦痛
       ・症状からくる精神的苦痛作時に速やかに対処できる

  &発作時に速やかに対処できる
   症状が速やかに消失する
   発作による不安感が軽減する
  $診断や治療方針が決定するまで

-1.バイタルサイン(血圧変動、脈拍増加、リズム不整、脈拍欠損)
  2.モニター、ECG(ST低下・上昇の有無、発作のない時と比較、硝酸薬使用時の波形変化)
  3.自覚症状
    1)痛みの部位、程度
    2)痛みの種類(絞扼感、圧迫感、放散痛の有無)
    3)持続時間、動悸、呼吸困難、眩暈、嘔気等の有無
    4)硝酸薬与薬後の症状の消失時間、また血管拡張による頭痛、心悸亢進、血圧低下等の有無
  4.発作出現時の状況(誘因の有無-#6参照)

-1.安静にして患者の安楽な体位にする
  2.発作出現時は医師の指示を施行
    1)ECG記録
    2)硝酸薬与薬
    3)硝酸薬与薬後、経時的にECG記録(ECG波形または症状改善する迄)をとり、胸痛の持続時間、改善時間、ニトロール等の舌下時間、バイタルサインを記録
    4)ECG記録と同時にドクターコールをする
    5)発作中は患者の側を離れないようにし、落ち着いた態度で接する

-1.発作時はすぐにナースコールするように指導する
  2.硝酸薬は常に患者の手元に置きすぐに服用できるようにし、服用時には起立性低血圧に注意し、座って服用する習慣づけを指導する

   〔要因〕・情報不足

  &検査・治療の方法、目的が十分理解でき不安が軽減する
  $診断や治療方針が決定するまで

-1.医師の治療方針、予定されている検査の把握
  2.検査結果の把握
  3.検査前後の症状の有無

-1.検査の必要性・方法を分かりやすく患者に説明し、胸痛等があるときは診断・治療の過程でまもなく苦痛がとれることを伝え、精神的な不安を取り除く
  2.検査結果について医師から十分な説明が受けられるよう配慮する

-1.検査の前日は激しい労作を避けるようにし、禁食等ある場合は守るよう指導
  2.検査に備えて薬物を中断している場合は発作出現に注意し無理な行動をとらず、ニトロール等を常に携帯するように指導
  3.負荷試験の場合はニトロール等を検査室に持参する

   〔要因〕・発作が頻発、長期持続する等の症状の悪化

  &症状が悪化することなく適確な治療を受け、心筋梗塞への移行を防止できる
  $診断や治療方針が決定するまで

-1.モニター、ECG上STの上昇
  2.15分間以上持続する激しい胸痛発作
  3.硝酸薬を3錠使用しても症状の改善がない場合
  4.バイタルサイン
  5.心筋逸脱酵素(CPK、GOT、LDH等)の上昇

-1.心筋梗塞が疑われる所見があればすぐに医師へ報告する
  2.速やかに適切な処置が行われるよう準備
    1)CCUへの搬入
    2)ルート確保、酸素吸入等の救急処置
    (以後心筋梗塞患者の看護を参照)

   〔要因〕・安静の必要性、日常生活行動おける制限の理解不足
       ・自覚症状がないために負荷をかけてしまう

  &安静の必要性を理解して決められた安静度を守り発作を起こさない
  $退院まで

-1.行動状況
  2.医師からの説明内容の把握
  3.疾患に対する理解度の把握

-1.行動制限のため不足するADL面の介助(保清、扶送など)
  2.安静度の範囲内で動ける工夫をし、精神的な苦痛をもたらせないような配慮をする

-1.具体的な行動許容範囲について説明する

  &安心して入院生活を送ることができ、ストレスの軽減が図れる
  $退院まで

-1.入院によって生じる心配事、ストレスの有無
  2.患者の家庭や、社会的な立場の把握
  3.夜間の睡眠が十分得られているか

-1.患者とのコミュニケーションを十分とり、入院に対する思いや訴えの傾聴
  2.家族のサポートが得られるよう家人へはたらきかける
  3.医師への情報提供

-1.入院期間、予定されている検査内容等具体的に医師から説明してもらう

   〔要因〕・危険因子がある
       ・知識不足
       ・薬物管理ができない
       ・発作時に適切な対処ができない
       ・日常生活行動について自己判断できない

  &発作の誘因を認識し、再発作予防のための自己管理ができる
  $退院まで

-1.冠危険因子の有無の把握
    


1)高血圧
    2)高脂血症
    3)肥満
    4)糖尿病
    5)喫煙
    6)ストレス・過労
    7)遺伝


  2.日常生活における心負荷因子、注意点についての理解度の把握
    1)排便コントロール
    2)精神状態(ストレス・イライラ感がないか,タイプA型行動)
    3)睡眠
    4)過食(暴飲・暴食していないか)
    5)喫煙の習慣
    6)体重増加、尿量減少、むくみや、血圧、脈拍の異常
    7)塩分、水分の取りすぎ
    8)適度な運動
    9)気温の変化、入浴時の注意
    10)内服薬の管理
    11)発作時の対処

-1.不眠の原因を取り除き、必要時睡眠剤、安定剤の与薬について医師と相談する
  2.便通調節のため、必要時下剤の与薬について医師と相談する
  3.塩分制限や低コレステロール食などの食事療法について、必要時個人栄養指導の計画を医師と相談する

-1.冠危険因子の除去
    1)高血圧の危険因子についてパンフレットを用い指導
      血圧のコントロール、測定の習慣づけ
    2)低コレステロール食について指導
    3)標準体重の維持
    4)血糖のコントロール
  2.日常生活における再発作予防の注意点について指導
    1)便秘予防の工夫を行い、怒責を避けるよう便通調節をする
    2)規則正しくゆとりある生活を心掛ける
      趣味、娯楽、適度な運動でストレス解消をはかる
    3)日中に適度な運動等を促す
    4)適量をゆっくり時間をかけて食事を取る
      カロリー制限を守り、アルコールの取りすぎに注意
    5)禁煙(喫煙の有害性と疾患との関係について説明)
    6)異常の早期発見ができるよう毎日自己チェックする
      自己検脈し、不整脈等あれば安静にすること
    7)減塩食の工夫について説明し、促す
    8)運動負荷の結果から医師と相談し、可能な運動の種類、量について説明
      運動の有効性について説明し、適切な運動を毎日続けられるよう指導する
    9)寒冷刺激を避ける
      入浴はぬるめの温度で長湯とならないようにする
    10)服薬は指示された通り正確に服用し、勝手に変更しないように指導する
      薬剤の効用、副作用について説明
      自己管理が難しい患者に対しては家族に指導する
      硝酸薬は常に携帯するように指導
    11)発作が起きたときは安静にしてニトロール等を舌下し、 3錠使用してもおさまらない場合はすぐ来院するよう患者本人、家族ともに指導する

  &日常生活における自己管理ができ、不安なく社会生活が送れる
  $退院まで

-1.退院後の生活での不安な点について把握する
  2.家庭でのサポート体制
  3.食事療法の理解度
  4.薬物療法の理解度
  5.社会復帰後の仕事量、内容
-1.試験外泊を促し、外泊時の生活状況、食事内容等について説明
  2.パンフレットを用い最終的な日常生活の指導


ペースメーカー植え込み術を受ける患者の標準看護計画


 心筋は自動能によって興奮し、心収縮を起こす。この機能が障害された時、心筋に人工的に電気刺激を与え、心収縮を起こさせるものをいう。一時的に体外から刺激を送る方法や、恒久的治療である植え込み術がある。その目的には、人工的に心収縮を起こすことにより、有効循環血液量の保持をはかる。頻脈型不整脈を停止させる。

 ペースメーカー植え込み術を受ける患者は、心臓を機械で動かされているというイメージをもち、恐怖感を抱きやすい。しかし、その恐怖感を克服して手術を受けなければ死に直結する可能性がある。また、患者はペースメーカーを植え込んだ体を管理しながら社会復帰し、一生を過ごすことになる。手術を受ける患者の受けとめ方や、患者自身の社会的背景や価値観についての情報が必要になってくる。

 1.洞不全症候群
1)アダムス・ストークス発作のある場合
2)眩暈、脱力感、眼前が暗くなるなど、症状は軽いが日常生活に支障をきたす場合
3)洞休止が22.5秒以上、または洞結節回復時間が異常な場合
4)徐脈-頻脈型で薬物治療が困難なもの
 2.房室ブロック、脚ブロック
1)アダムス・ストークス発作や脱力感、眩暈などの自覚症状のあるもの。また、うっ血性心不全や低心拍出等の症状のある完全房室ブロック
2)2度~3度の房室ブロックで、症状は軽くてもヒス束心電図上H-V間隔の延長(55m/秒以上)があり、右脚ブロック+左脚前枝ブロックあるいは右脚ブロック+左脚後枝ブロックをともなう場合
3)心房細動: 徐脈性の心房細動でアダムス・ストークス発作や眩暈などの症状がある場合
4)頻脈疾患(PSVT): 反復性で内科治療に抵抗性があるもの

 心臓の生理的機能に近づけるために、種々の工夫がされた機種が開発されている。それは、電極の楔入部位や刺激を感知する場所(心房・心室)、刺激を出す場所、また、どんなときに、どのように感知してペーシングするか(様式)により、さまざまなタイプが各疾患に選択して使われる。これを一般的に、ペースメーカーモードという。
 主なものは、
 AAIモード(P波抑制型ペーシング;洞不全症候群に適応)、
 VVIモード(R波抑制型ペーシング;房室ブロック、洞不全症候群、徐脈型心房細動に適応)、
 DDDモード(生理的ペーシング;洞不全症候群、房室ブロックに適応)
 が用いられている。

  • 24時間ホルター心電図
  • 心機能検査
  • 血液データ、等
 ペースメーカーの本体は、前胸壁や腹壁の皮下・筋膜下に置く。
 カテーテル電極の場合は経静脈的に右心室内に挿入する。
 心筋電極の場合は心筋外面に装着固定する。
 ほとんどが局所麻酔で行なわれている。

 電極周囲の線維化は3日から1週間必要であり、この時期はペースメーカーの作動不全が起こりやすい。そのため、植え込み部位の安静が必要である。また、過去の至適レートと至適ペーシングレートの格差により、患者に不快感や障害を感じさせることがあるため種々の観察が必要になってくる。
 (1) ECG管理
ECGモニターを装着し、植え込んだペースメーカーの機種、セッティング条件を把握して、安静時および運動時のECGモニターを観察し、作動不全や危険な不整脈の早期発見につとめる。
 (2) 創部の観察
異物に対する拒絶反応や感染の有無の観察として、植え込んだ部位の熱感・腫脹・発赤疼痛などの炎症反応をチェックする。
 (3) ペースメーカー植え込み後の適応状況の把握
吃逆、眩暈、頭痛、動悸、胸壁筋肉や術側上肢の観察など
 (4) 精神的サポート
ペースメーカー植え込み術を受ける患者の不安は、異物が体内に入ることによるボディイメージの変化への不安、手術そのものに対する不安、治療後の生活に対する不安などがある。不安の内容や程度、表出の仕方など個人差はあるが、精神的・身体的・社会的側面からの情報で、患者それぞれの訴えを判断することが大切である。

 (1) ペースメーカーの作動不全  
作動不全(failure)とは、挿入したペースメーカーが設定された条件で正しく機能して いないことをいう。
sensing failure
 感知機能の不全-電気刺激(スパイク)が正しく機能してない。
pacing failure
 出力機能の不全-センシングされてもそれに続く心収縮刺激をださない。
ペースメーカー作動不全の因子
 ・電極または導線の断線
 ・電極先端の離脱
 ・心筋閾値の上昇
 ・電池の消耗
 (2) 不整脈
ペースメーカーカテーテルの電極によって、心筋が易刺激性となり、心室性期外収縮や心室頻拍、心室細動等を起こしやすい。
 (3) 心筋電極の心外膜への穿通
ペーシング不全や閾値の上昇、横隔膜や肋間筋攣縮、心窩部痛、心電図のQRSパターンの変化などがみられる。
 (4) 感染
全身性、または局所性の感染を起こす。
 (5) 植え込み部位の拒絶反応
電極遊離、浸出液貯留、ポケットのびらんなどがあれば、植え込み部位の変更が必要である。
 (6) 横隔膜攣縮による吃逆
電極が心室の先端に入りすぎると、横隔膜を刺激して起こる。
 (7) ペースメーカー症候群
ペースメーカー植え込み後に、動悸や眩暈、息切れ、倦怠感などの症状がでて、不快感が出現する。心房、心室収縮の不一致が原因といわれている。また、自己の緩慢なリズムに慣れた人では、ペースメーカーの心拍に適応できず、動悸やのぼせなどの症状を自覚する。
 (8) 刺激閾値の上昇
電極先端周囲の組織の反応の結果として閾値が上昇する。植え込み後1~2週間やや上昇し、そのあとは次第に安定する。



.アセスメントの視点
 患者の多くは無症状であるが、アダムス・ストークス発作や頻脈発作が起きた場合は、生命への危険性が予測されるため、自覚症状や心電図波形に注意する。
 ペースメーカーという人工のものを挿入することに対する不安もあるため、精神面への配慮もまた必要である。

.問題リスト(術前)
   [要因]・徐脈による失神発作
       ・発作からくる二次障害
       ・頻脈発作は瞬間的といえるほど突然に始まり、突然おわる

   [要因]・検査、治療方法に対する情報の不足
       ・身体損傷に伴う潜在的障害の可能性
       ・予測できない治療後の生活様式の変化、役割変化、社会復帰後の生活
       ・予測できない治療の効果

   [要因]・他疾患(糖尿病、腎機能や心機能障害など)を併発していることが多い
       ・手術後の安静によるADL不足や身体的、精神的苦痛

.看護目標(術前)
  1. アダムス・ストークス発作や頻脈発作に対して適切な処置を行なうことができる
  2. 疾患、手術に対する不安が軽減され手術に向けて精神的な準備ができる
  3. 予測される健康障害を知り、手術に向けてコンディションを整える

.看護問題(術前)
  &発作出現時、救急処置を施される
  $手術前日

-1.自覚症状;動悸、息切れ、頭痛、眩暈の有無
  2.失神発作の有無、程度、時期
  3.全身状態;BP、HR、R、意識レベル、痙攣など
  4.モニターの観察;入眠時、覚醒時、体動時 HR、波形、P波の有無、
P波とQRSの関係
  5.BP値とその変動
  6.検査データ;ECG、心胸比
  7.睡眠時間、寝付き、熟睡感

-1.失神、頻脈発作時の対処;まず医師に報告
    1)救急カート、吸引セット、酸素、点滴、DC(頻脈発作)など
    2)衣服緊縛の除去(失神発作)
    3)身体の安静
    4)舌咬傷の予防処置;舌圧子、バイトブロックの使用(失神発作)
  2.徐脈時の対処
    1)医師の特別指示箋がある場合はそれに従う
    2)原則としてBPを測定し、BP低下の有無をチェックする
    3)入眠時であれば覚醒させ、HRの変動をみる
  3.危険防止
    1)ベッド周囲の整理整頓
    2)ベッド柵を3個使用する
  4.不安の緩和、精神的支援;訪室回数を多くし、話をゆっくり聞く
  5.正確な与薬;硫酸オルシプレナリン(アロテック)等の内服薬を使用している場合、確実な与薬に気を配る

-1.ベッド周囲の整理整頓を行うように指導する。不要なものは持ちかえるように指導する
  2.動悸、ふらつき、胸部不快が起こりそうであればすぐにナースコールする様に話す
  3.モニター装着時の注意
    1)指示された行動範囲、運動制限を守る
    2)ベッドサイドにハムの原因となるものを置かない
    3)電極の異常時はナースコールするように話す
  4.アダムス・ストークス発作症状を説明し、症状出現時にはすぐにスタッフに連絡するように指導する
  5.頻脈発作経験者には前駆症状があり次第ナースコールするよう指導する
  6.内服薬を医師の指示どおり確実に内服するように指導する
  &ペースメーカー植込の意義、手技、術後の安静などが理解でき不安が軽減され、スム-ズに手術が受けられる
  $手術前日

-1.入院生活や手術に対する訴え
  2.ペースメーカーに対する理解度
  3.疾患に対する理解度
  4.精神状態;食欲、睡眠状態、患者の言動

-1.不安の緩和、精神的支援;訪室回数を多くし話をゆっくり聞く。処置は適宜患者に声をかけながら行なう
  2.ECGモニター監視;24時間モニタリング
  3.指示により薬剤与薬
    1)β受容体興奮剤;塩酸イソプレナリン(アロテック)、硫酸アトロピン
    2)抗凝固療法、止血剤使用中には、その中止時期、減量与薬時期に注意
  4.術前オリエンテーション
    1)ペースメーカー植え込み場所の決定
    2)仕事の内容
    3)利き手の確認
  5.術前指示書に基づいた術前処置の実施

-1.術前オリエンテーション
    1)手術の日時、場所、服装
    2)絶飲食の時間
    3)中止薬の説明
    4)術前血管確保、注射の指示
    5)前日の与薬;睡眠薬、下剤
    6)術後の安静度
    7)必要物品;吸い飲みなど
  2.植え込み術の意義、手技、術後安静の説明;医師より施行されるが、理解不十分な点があれば補足または医師へ確認する
-1.患者の状態把握
    1)心機能状態、糖尿病の有無、腎機能、他の既往歴より問題となる点
    2)患者の健康レベル;心機能、血液データ、バイタルサインズ
    3)日常生活状態(特に上半身を使う動作)

-1.術後支障となる点については患者と相談し、工夫する
-1.手術後の安静を理解できるようにオリエンテーションする



.アセスメントの視点
 術後早期の合併症としては、出血、感染、血栓形成などに注意する。また、ペースメーカー作動不全やペースメーカー症候群が起こる可能性がある。退院後は日常生活に対 する指導が重要である。

.問題リスト(術後)
   [要因」・手術創からの出血
       ・感染による縫合不全
       ・血行障害
       ・人工物(ペースメーカー)の留置

   [要因」・センシング不全
       ・ペーシング不全
       ・徐脈に慣れている身体がペースメーカーにより、急に頻拍になったり、末梢循環血液量増加により潜在症状の出現

   [要因]・カテーテル電極の離脱、移行の危険性

   [要因]・ペースメーカー植え込み後の生体的変化
       ・情報や知識の不足

.看護目標(術後)
  1. 手術からくる苦痛の緩和とともに患者が現在の状態を理解でき、情報や知識が十分得られる
  2. ペースメーカー植え込みに対しての受け入れができ、情報や知識が十分得られる
  3. 心身ともに自立し、退院に向けて準備ができる

.看護問題(術後)
  &合併症を起こさずに経過する
  $術後~退院前日

-1.創部の状態の観察
    1)創部の出血、ガーゼ汚染の有無
    2)発赤、腫脹、嘴開の有無
    3)皮下血腫の有無と程度
  2.足背動脈、その他の動脈触知状況の手術前後での差
  3.自覚症状の有無
    1)疼痛;創部痛、その他の部位かどうか、疼痛の程度
    2)悪寒戦慄の有無
    3)しびれ感、頭痛の有無
  4.検査データの把握
    1)WBC、RBC、CRP、血沈、血液培養等
  5.バイタルサインズのチェック
    1)熱発の有無、熱型、熱発の程度
    2)BPの変動
    3)四肢末梢冷感の有無、悪寒戦慄の有無
  6.細菌性ショックの有無   

-1.ガーゼ交換の介助;1回/日 清潔操作を行なう
  2.熱発時氷枕を貼用するとともに医師報告する
  3.点滴ルートがある場合はその管理を行なう
  4.ナースコールは患者の使用可能な場所に置く
  5.抗生物質の確実な投与

-1.皮下出血は消失するまで時間を要することを説明する
  2.不快な症状がある場合はすぐにナースコールするように指導する
  3.手術後多少の熱発が吸収熱としてあることを説明する
  &ペースメーカー作動不全や不快な症状をきたさず順調に経過する
  $退院まで

-1.ECGモニターを装着し観察する;ペースメーカーモード電極の位置、設定レ-ト数、出力、閾値を把握しておく
    1)ペースメーカー刺激波(スパイク)とQRSとの関係、QRS波の幅
    2)センシングミスとペーシングミスの有無
    3)HR、呼吸
    4)ペースメーカー作動時のレートは設定数になっているかどうか
    5)ペーシングの作動状況;自己レートとペーシングレートの割合
    6)以下のペーシング失調が起こりうることを知っておく   


・バッテリーの消耗
・閾値の異常上昇
・リード線の断線
 ・センシング不全
 ・オーバーセンシング
 ・電磁波障害


  2.ペースメーカー不全兆候の有無
    1)BP低下、尿量減少
    2)動悸、胸痛、冷汗
    3)呼吸困難と疲労、眩暈
  3.吃逆の有無;横隔膜刺激症状
  4.ペースメーカー症候群の有無;動悸、呼吸困難、顔面紅潮、発汗、眩暈、胸内苦悶、胸痛症状出現時、対症療法を行なうが、場合によっては薬物療法の適用となる

 -1.ペースメーカー作動不全、ペースメーカー症候群症状出現時至急医師に報告する
  2.モニター上では判断できない波形出現時は12誘導をとる
  3.ペーシング設定を変更する場合はその都度、医師より変更後の条件を確認しておき正しく申し送りをする
-1.ペースメーカー植え込みに伴い起こりうる症状を説明し、その不快な症状が出現した場合はすぐにナースコール
    するように指導する
  2.モニターは寝衣の胸ポケットに入れると本体を圧迫する場合があるので位置に気をつけるように説明する
  3.モニターの状態が悪い場合は深夜でも付けなおすことがあることをあらかじめ説明しておく
  4.ペースメーカー症候群に対し、一時的に発症するものであることを十分患者に説明し、不安の軽減に努める
  &患側前腕の循環障害をきたさず安静が守られる
   安静臥床、運動制限による苦痛が緩和される
  $術後1週間

-1.患側前腕の循環状態の観察;爪床色、しびれ感の有無
  2.安静が守られているか否かの観察
  3.安静による苦痛、疼痛部位(肩、腰部、背部など)の観察

-1.術後1~2日間創部に砂のうを貼用する
  2.植え込み後72時間は(カテーテルの先端が支持組織に固定される期間)は患側上肢の挙上は禁止
  3.安静度;
     植え込み後24時間:ベッドアップ30°
     48時間:ベッドアップ60°~ベッドサイド
     72時間:トイレ歩行
  4.体位制限内で安楽な体位の工夫をする;小枕、バスタオルなど使用する
  5.手術当日は床上での食事、排泄、洗面介助を行なう
  6.病棟内歩行が許可されるまでは下膳、配湯等を行なう
  7.身体の保清
    1)清拭;発汗時は患側腋下に特に留意して行なう
    2)洗髪;主治医の許可がでたら行なう
    3)絆創膏の汚染はユニソルブで拭き取る
  8.筋肉痛に対しては湿布を貼用する

-1.安静解除は主治医の指示にしたがって行なうことを説明する
  2.安静は、ペースメーカー本体の固定と電極離脱防止のために大切であることを説明する
  3.ペースメーカー本体収納部位を圧迫したりぶつけたりしないように指導する
  &日常生活の注意事項が理解できる
   PR測定が確実に行なえる
  $退院まで

-1.退院後の日常生活環境;家族、仕事、趣味など
  2.ペースメーカーに対する理解度
  3.PR測定の実施、正確さの有無
  4.創部の癒合状態を観察する;ケロイドの有無、女性の場合は特に注意する

-1.検温時に看護婦と同時にPR数の自己測定を行なう
  2.創部の状態(外観的にケロイドなどがあり)に問題があれば、医師に報告する

-1.ペースメーカーのしおりとペースメーカー手帳を用いて生活指導を行なう;本人、身近な家族を交えて
    1)ペースメーカーの設定;HR(数/分)
    2)自己測定しPRが設定数よりも少ない場合は、ただちに主治医に連絡を取るか外来を受診するように指導する
    3)患者の脈が整脈であるか不整脈かを説明しておき、そのリズムがかわった場合は注意するよう指導する
    4)安静時の自分のPR数を知っておくこと
    5)自己検脈は1日2回以上は1分間測定するよう指導する
    6)電気カミソリ、電気毛布、電子レンジなどは使用法を正しく行えば問題はない
    7)強い磁石をペースメーカーにあててはいけない
    8)ペースメーカー手帳は常に携帯しておく
    9)運動、妊娠などは主治医に相談する
    10)海外旅行の際は金属探知機が作動することに留意する
    12)漏電に注意する
    13)電気治療器、低周波治療器は使用しない
    14)歯科医を受診するときはペースメーカー手帳を提示する
    15)植え込み部位の異常時には外来受診する;局所の発赤、疼痛、掻痒感
    16)胸部の保護;打撲に注意する
    17)異常症状が出現したらすぐに外来受診する;動悸、呼吸困難感、胸痛、咳嗽、浮腫、吃逆が止まらないなど
    18)内服は確実に行なう;それぞれの薬効を知っておく
    19)携帯電話を操作する場合、ペースメーカーの植え込み部位から22㎝以上離して使用する。また、通話をする場合は
      ペースメーカーの植え込み部位と反対側の耳にあてる