腎不全とは
腎不全とは、高度の腎障害のために生体の内部環境の恒常性を維持できなくなった状態をいう。本症は、短期間で急激な腎機能の悪化をきたす急性腎不全と、慢性の腎疾患が徐々に進行して腎機能の悪化をきたす慢性腎不全とに分けられる。
急性腎不全とは
急性腎不全とは、正常に機能していた腎臓が、なんらかの原因により急激に高度な機能障害をきたした状態をいい、多くは可逆性で、腎機能の回復が期待できる。
アセスメントの視点
急性腎不全は、急速な尿毒症症状をまねき、死に至る危険性もあるが、慢性腎不全とは異なって可逆的な要素をもっており、速やかな対処がなされればその危険は防ぐことができる。高窒素血症や高カリウム血症などがある場合は、透析療法が行われる。患者は全身倦怠感などを訴え、またつぎつぎと行われる処置に対して不安を感じる。
原因
腎前性・腎性・腎後性に分けられる。
1.腎前性急性腎不全
腎臓そのものに大きな異常はなく、大量の出血、脱水などにより循環血液量が低下し、腎血液量が低下することにより、急速に腎機能低下を生ずる。
2.腎性急性腎不全
狭義の急性腎不全をいう。
急速に進行する腎疾患(急性糸球体腎炎、溶血性尿毒症症候群、血栓性血小板減少性紫斑病など)によるもの、腎毒性物質(抗生物質、抗がん剤、造影剤、有機溶剤など)によるものなどがあり、急性糸球体壊死を生ずるものが多い。
3.腎後性急性腎不全
結石、凝血、腫瘍、前立腺肥大などにより尿路が閉塞されることにより、糸球体濾過率が低下し、水腎症となる。
経過
発症期・乏尿~無尿期・利尿期・回復期に分けられる。
1.発症期
原因発生から乏尿が始まるまでの1~3日間。
2.乏尿~無尿期
数日~3週間続くことが多いが、ときには数週間続くこともある。
腎機能の極端な低下により、水分や老廃物の排泄が不十分となり、これらが体内に貯留し、急激に体内環境を変えるために尿毒症症状が出現する。
3.利尿期
症例によって幅があり、数日~数週間。
ネフロンの修復が始まり、尿が出始めるが、まだ腎臓の調節機能が不十分なために代償的に多尿になる。電解質異常、特に低ナトリウム血症、低カリウム血症に陥りやすい。
4.回復期
尿細管機能の完全な回復には数カ月~1年かかる。
尿量が正常となり、BUNやクレアチニン、電解質も正常となる。
症状
原因疾患による症状 尿毒症症状
・全身症状 全身倦怠感、易疲労感、浮腫、貧血、出血傾向
・循環器症状 心不全、高血圧、不整脈
・呼吸器症状 チアノーゼ、呼吸困難、過呼吸、肺炎
・消化器症状 食欲不振、嘔気、嘔吐、口渇、便秘、下痢、吃逆、消化管出血
・神経症状 羽ばたき振戦、頭痛、昏睡、意識障害、痙攣、不安、不眠、末梢神経障害
・その他 皮膚乾燥、掻痒感、発汗減少、骨折、無月経
・検査データ クレアチニン上昇、BUN上昇、カリウム上昇、クレアチニンクリアランス低下、代謝性アシドーシス
検査
・ 血液検査
・ 血液ガス検査
・ 胸部X線写真
・ 心電図
・ エコー
・ CT
・ 腎スキャン・レノグラム
治療
1.保存的治療
原因疾患に対する治療、安静、補液、薬物療法(利尿剤など)、食事療法(高カロリー、低タンパク、塩分制限、カリウム制限)
2.透析療法
保存的治療を施行しても、利尿がみられず、高窒素血症や高カリウム血症、アシドーシスが改善されない場合、透析療法を導入する。早期から透析を行ったほうが生命予後が良いという報告が多い。透析は利尿期に入っても続けることもあるが、検査データの改善によって離脱できる。
看護計画
Ⅰ.アセスメントの視点
急性腎不全の経過中の観察は、急速に進行する腎機能障害、尿毒症症状を早期に発見し、利尿期の変化に対応し、腎機能が回復していくのを見守ることである。また、急速な変化に対し患者が不安を抱いていることを理解して援助することが大切である。
Ⅱ.問題リスト
♯1.急激な腎機能低下、乏尿により心不全や意識障害、不整脈を起こし、死に至る危険性
〔要因〕・急激に腎機能が低下する可能性がある
♯2.尿毒症症状による身体的苦痛
〔要因〕・腎機能低下による尿毒症症状の出現
♯3.さまざまな治療(安静、薬物療法、食事療法、水分制限)に対する不安
〔要因〕・治療により日常生活が制限される
♯4.透析療法に対する不安
〔要因〕・透析に対するイメージ
♯5.生命予後に対する不安(患者・家族)
〔要因〕・疾患そのものに対する恐れ
・経済的な不安
・家庭内の役割の変化
Ⅲ.看護目標
1. 異常の早期発見に努め、適切な治療により腎機能が回復する
2. 身体的苦痛が緩和できる
3. さまざまな治療を受け入れることができる
4. 精神的不安の軽減を図る
Ⅳ.看護問題
♯1.急激な腎機能低下、乏尿により心不全や意識障害、不整脈を起こし、死に至る危険性
〔要因〕・急激に腎機能が低下する可能性がある
&異常の早期発見ができる
適切な治療により死を回避することができる
$全身状態が安定するまで
O-1.バイタルサイン
2.意識レベル
3.呼吸音
4.咳嗽、喘鳴、喀痰、呼吸困難の有無
5.水分出納チェック(飲水量、補液量、尿量)
6.体重測定
7.浮腫の有無
8.四肢の冷感、チアノーゼの有無
9.ECGモニターのチェック
10.検査データ:クレアチニン、BUN、カリウム、ナトリウム、総蛋白、アルブミン、血液ガス、貧血、出血傾向
T-1.輸液管理:ラインなど自己抜去しないように固定の工夫
2.安楽な体位の工夫:ファーラー位、起坐位
3.安静の保持:ADLの介助(食事、排泄、保清、移動)面会制限
4.身体の保温に努める:温罨法の使用
5.ベッド周囲の危険の防止を図り、転落や打撲を避ける
6.緊急薬品、DCの準備
7.感染の予防
8.家族への援助
E-1.安静の必要性を説明する
2.処置前に必ず説明し、協力が得られるようにする
3.医師よりムンテラを行い、医療チームのムンテラ内容を統一する
また、医師のムンテラ内容の理解度を把握し、不十分な点は補足する
♯2.尿毒症症状による身体的苦痛
〔要因〕・腎機能低下による尿毒症症状の出現
&身体的苦痛が緩和できる
$身体的苦痛が消失するまで
O-1.尿毒症症状
・全身症状:全身倦怠感、易疲労感、浮腫、貧血、出血傾向
・循環器症状:心不全、高血圧、不整脈
・呼吸器症状:チアノーゼ、呼吸困難、過呼吸、肺炎
・消化器症状:食欲不振、嘔気、嘔吐、口渇、便秘、下痢、吃逆、消化管出血
・神経症状:羽ばたき振戦、頭痛、昏睡、意識障害、痙攣、不安、不眠、末梢神経障害
・その他:皮膚乾燥、掻痒感、発汗減少、骨折、無月経
・検査データ:クレアチニン、BUN、カリウム、クレアチニンクリアランス、代謝性アシドーシスの有無
T-1.安楽な体位の工夫
2.安静の保持
3.ガーグルベース、含嗽の準備
4.医師の指示による適切な与薬
5.不安の除去
♯3.さまざまな治療(安静、薬物療法、食事療法、水分制限)に対する不安
〔要因〕・治療により日常生活が制限される
&安静の必要性を理解し、自主的に安静に努められる
$1~3日
O-1.決められた安静の保持ができているか
2.安静時に患者は何をして過ごしているか
T-1.ADLの介助:食事、排泄、保清、移動
2.ベッド周囲の環境の整備
3.気分転換を図れるようにケアする(医師の許可を得て車椅子で散歩するなど)
E-1.安静の必要性を説明する
&薬の効果や副作用を知り、適切に内服できる
$1~3日
O-1.薬が適切に内服できているか
2.薬の必要性を理解できているか
T-1.薬を適切に内服させる
E-1.薬の効果、副作用について説明する
&食事療法の必要性を理解し、治療食を摂取できる
$3~5日
O-1.食事摂取状況
2.間食の有無
3.患者の嗜好を知る
4.食事療法の必要性を理解できているか
T-1.制限内で患者の嗜好を取り入れる
E-1.食事療法(高カロリー、低蛋白、塩分制限、カリウム制限)の必要性を説明する
2.治療食以外の間食を禁止する(十分に摂取できている場合)
&水分制限を守ることができる
$1~3日
O-1.飲水量チェック
2.口渇の有無
3.水分制限の必要性を理解できているか
T-1.水分制限が守れない場合、口渇に対し、含嗽や氷片をふくむなどで対処する
2.水分制限が守れない場合、決められた時刻に決められた量を飲むなど工夫をする
3.制限内で患者の嗜好を取り入れる
E-1.水分制限の必要性を説明する
♯4.透析療法に対する不安
〔要因〕・透析に対するイメージ
&透析を受け入れることができる
$透析開始するまで
O-1.透析に対して抱いている不安の状態
2.透析の必要性を理解できているか
3.除水量
4.バイタルサイン
5.不均衡症候群の出現の有無:頭痛、嘔気、嘔吐、痙攣、意識障害など
6.検査データ:透析前後のクレアチニン、BUNなど
T-1.不安の傾聴
2.不均衡症候群の出現時、医師に報告し指示を得て、対処する
E-1.透析の必要性を説明する(腎機能が回復すれば離脱できることも説明する)
♯5.生命予後に対する不安(患者・家族)
〔要因〕・疾患そのものに対する恐れ
・経済的な不安
・家庭内の役割の変化
&精神的不安が軽減できる
$死を回避し、全身状態が安定するまで
O-1.患者・家族の言動
2.疾病に対する認識
3.医師からの説明の内容
4.患者、家族間の疾病に対する理解、認識の差
5.患者の夜間の睡眠状況
T-1.不安の傾聴
2.必要に応じ、病態などについて医師から説明してもらう
3.患者・家族の疑問点があれば、その都度対処する
E-1.家族に患者のサポートの必要性を説明する