すぽんさーどりんく

すぽんさーどりんく

放射線療法をうける脳腫瘍患者の看護計画


 可能なかぎり手術的に摘出し、小病巣に対して放射線を照射したほうが感受性が高く、治癒率が高い。放射線と抗癌剤の併用療法も行われる。放射線の適応があるのは次の場合である。
 (1)手術によって完全に摘出できず、取り残しがあると思われる場合:
大部分の多形膠芽腫、星細胞腫、乏突起細胞腫、脳室上衣腫、下垂体腺腫
 (2)切除不可能なもの:
脳幹部、運動領域、前頭葉の腫瘍で、手術によって重大な機能の欠落や生命の危険が生じるもの(松果体腫、小脳髄芽腫)
 特殊な方法として、小脳髄芽腫、脳室上衣腫、松果体腫では腫瘍細胞の播種を予防する目的で、全脳照射や全脊髄腔照射が行われる。癌の転移に対しても全脳照射を行う。

 (1)グリオーマ
ほとんど全ての症例が低感受性をもち、放射線治療の適応とならない。ただし、膠芽細胞腫のみは非常に高感受性で、放射線治療の適応となるが、腫瘍の性質は悪性である。
 (2)髄膜腫
低感受性で、手術を用いるべきである。
 (3)松果体腫瘍
高感受性で放射線治療の適応であるが、純粋な胚芽腫以外は予後は不良である。
 (4)下垂体腫瘍
良性のもののほとんどが中高度感受性を有する
 (5)網膜芽細胞腫
高感受性で放射線治療の適応であるが、手術の併用も行われる。
 (6)脊索腫
感受性は極めて低い。
 (7)転移癌
中等度感受性である。

 (1)全中枢神経系照射
 脳脊髄液を介してクモ膜下播種をきたしやすい髄芽腫が主な対象で、多くは眼を遮断した左右対向2門による全頭蓋腔への照射と、後方からの脊髄腔全長にわたる照射である。側方からの照射は、前、中頭蓋底を外さないように工夫した遮蔽ブロックを使用し、通常第2頸椎下縁までを含める。脊髄に対しては、照射野の継ぎ目に重なりや間隙を生じないように、日によって継ぎ目の位置を変えるなどの工夫が必要である。松果体腫や上衣腫にも本法を適用する場合がある。
 (2)大~中照射野照射  浸潤性の悪性膠腫などでは、推定される進展範囲より広く照射する必要がありその極限が全頭蓋腔照射である。膠芽腫、リンパ腫、転移性脳腫瘍などがその対象となる。大線量を必要とする組織型では、正常脳組織の耐容線量を考慮して、4050Gy以後順次照射野を縮小する。比較的浸潤傾向の少ない腫瘍では、十分に余裕をもった中照射野で多門ないし運動照射法を使用する。
 (3)小照射野照射  下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫など組織学的に良性で、進展範囲を確立しやすい腫瘍では、小照射野(6×6cm以下)の多門または運動照射により、正常組織の障害軽減を図る。頭部照射では、シェル(固定用の装具)を一人一人の患者に作製して治療を行うことにより、顔などの外からよく見える部位へのマークに対する患者の精神的負担を軽減する。また、毎回の再現性を維持すると同時に治療中の動きを数mm以下に抑えることができる。

 線量決定には治療効果と同時に、正常中枢神経系組織の耐容量を考慮しなければならない。一回の線量は1.8Gy2Gyで週5回行う。中枢神経腫瘍の放射線感受性は多岐にわたっており、また他の部分の腫瘍のような進展度分類も確立されておらず、さらに脳腫瘍における治療効果判定の困難性も加わって、至適線量を一律に規定することは難しいが、膠芽腫で6065Gy、星細胞腫で5060Gy、上衣腫・髄芽腫で50Gy、下垂体腺腫で4050Gyをすすめており、一応の基準と考えられる。

 全身的には放射線により全身倦怠感、食欲不振、悪心などの放射線宿酔症状がおこりやすい。放射線宿酔の発生機序は、放射線による化学反応の過程で、過酸化物質が多量に発生し、肝臓で処理される。肝臓自体が疲弊に伴い、宿酔症状を呈する。さらに血流中に存在する炎症細胞(白血球)よりヒスタミン系物質の遊離によりアレルギー性症状を呈することで宿酔症状が起きる。宿酔症状には、過酸化物質の蓄積とヒスタミン系物質の両者が関与すると言われている。放射線に対する不安感が強い人も起こりやすい。頭部照射であるため、照射開始後早期には、照射をうけた脳脊髄組織が浮腫状に変化し、脳脊髄液が増加し、その結果脳圧が上昇する。そのため嘔気、嘔吐、頭痛など照射に伴う脳浮腫による一過性脳圧亢進に起因すると考えられる症状が2030Gy未満で起こる。照射野には放射線により皮膚の細胞の障害で発赤、掻痒感などの放射線皮膚炎が起こりやすい。また毛根上皮障害による脱毛が2030Gyで起きる。放射線治療開始から数カ月ないし数年の潜伏期を経ておきる重篤な障害として、晩発性放射線脳壊死がある。(その発生機序は明らかではないが、主として放射線による血管障害に二次的な現象と考えられる。)



.アセスメントの視点
 頭部照射はマーキングをシェル上で行うため、照射野を患者・看護婦ともに見落としやすい。そのため予防行動がとれずに皮膚炎を起こしやすくなったり、皮膚炎の発見が遅れてしまうことがあるため、治療の早期から皮膚症状や脱毛状態を把握していく。また放射線により、脳浮腫を起こし、頭蓋内圧亢進症状がおこる。バイタルサインや症状の観察を行う。また頭蓋内圧亢進症状による嘔気、嘔吐などで低栄養状態をきたすことがあるので、食摂取量の把握や体重の変化、血液データにも着目する。
 また、初めて放射線治療を受ける患者は、放射線に対して誤解と偏見に満ちたものであることも少なくない。そのため、治療に対して不安や恐怖をもつ。治療に対する思いや不安を早期に把握することが大切である。さらに治療が進むにつれて、照射野にあわせて脱毛が起こることにより、ボディーイメージの変容に対する精神的ショックが大きく、副作用出現に対する不安をもちやすいので、不安の把握や不安に起因する身体症状の観察も行っていく。さらに放射線療法が終了しても、放射線の影響や再発などに対しても不安をもつことがあるので、患者や家族のこれらに対する思いの把握を行う。

.問題リスト
   (要因)・疾患への不安
       ・放射線治療そのものに対する不安
       ・放射線治療の副作用(脱毛によるボディイメージの変容など)に対する不安
       ・入院により社会的役割が果たせない
       ・入院という慣れない環境
       ・治療や退院後の予期的不安

   (要因)・放射線宿酔症状
       ・放射線皮膚炎
       ・毛根上皮障害による脱毛
       ・脳浮腫による脳神経症状
       ・放射線による血管障害による2次的現象である晩発性放射線壊死が照射終了後から数カ月ないし数年の潜伏期を経て起きやすい

   (要因)・疾患への不安
       ・放射線治療そのものに対する不安
       ・放射線治療の副作用に対する不安
       ・経済面への不安
       ・家族内の役割の変化
       ・患者と家族間の人間関係

.看護目標
  1. 疾患、放射線治療に対する不安が軽減され、心身ともに安定した状態で放射線治療を受けることが出来る
  2. 放射線療法による副作用(脱毛、嘔心、嘔吐など)を早期に対処し、最後まで治療を受けることが出来る
  3. 家族サポートを通じて患者が支えられる
.看護問題
1.放射線治療や疾患に対する不安があり、精神的に安定した状態で治療を受けられない

  &放射線治療の必要性が理解でき、言葉で表現できる
   疾患や治療に対する不安を言葉で表現できる
   精神的に安定した状態で治療を受けることができる
   照射オリエンテーションを通じて、放射線治療やその副作用に対するイメージが出来、対処方法を言葉で表現出来る
  $入院から退院まで

-1.入院への適応状況
  2.疾病、治療に関する患者の情報量とその理解度
  3.患者の訴え、表情、言動
  4.睡眠状況
  5.サポートシステムの状況
  6.性格
  7.対処行動と対処能力

-1.治療の必要性、方法を分かりやすく説明し、わからないことや不安に思うことは何でも質問してもらう
  2.治療について医師より十分説明してもらい、理解不足があれば追加説明を行い納得した状態で治療を受けられるようにする
  3.医師より患者にムンテラした内容について、看護婦間に周知し、言動の統一を図る
  4.精神的に不安定になっているので、会話には細心の注意を払う
  5.不安を表出できるようにするために以下のケアを行う
     1)患者や家族の訴えをよく聞き、受容的態度で接する
     2)不安が表出できるよう患者や家族との信頼関係をつくる
     3)疾患に対する不安は、医師から十分に説明がうけられるように配慮する
     4)静かで休息のとれる環境を整える
  6.状態が安定している場合は、週末には外泊をすすめるなど気分転換が図れるよう配慮する
  7.治療前にオリエンテーションを不安なくうけられるよう配慮する

-1.患者が治療に対しイメージでき、また副作用の出現に対処できるように、必ず照射前にオリエンテーションを行う
  2.副作用については、一時的反応であり、個人差があることを説明する
  3.わからない点があればいつでも質問するように指導する
  4.現疾患による症状(物忘れなど)が強い際は、その対処能力に応じてその都度十分な説明を行う
2.放射線治療により、副作用をおこす恐れがある
   (要因)-1放射線宿酔症状
       -2放射線皮膚炎
       -3毛根上皮障害による脱毛
       -4脳浮腫による脳神経症状
       -5栄養状態の悪化
2-1 宿酔症状をおこす恐れがある
  &宿酔症状を理解でき、言葉で表現できる
   症状出現時、医師や看護婦に報告することが出来、適切な処置がうけられる
  $治療開始から終了まで(照射開始後10日前後で消失することが多い)

-1.全身倦怠感
  2.食欲不振
  3.悪心・嘔吐
  4.疲労感
  5.頭重感
  6.めまい
  7.食事摂取量
  8.宿酔症状に対する思い、理解度

-1.患者の訴えを十分に聞き優しい言葉かけをして励ます(一過性のものなので心配ないと励まし、放射線に対して不安があればその内容を明らかにし不安の軽減に努める)
  2.患者の嗜好を取り入れ、食欲増進を図る
  3.食事時間にこだわらず、食べられる時に食事が出来るようにする
  4.食事量が低下してきた時は、食事の内容を変更する
  5.宿酔症状が強い場合は、普段は大丈夫な匂いでも吐き気をもよおすことがあるので環境にも配慮する
  6.経口摂取が困難な場合は、経管栄養を考慮する
  7.嘔気があるときは、胃部をクーリングし、爽快感が得られるようにする
  8.医師の指示で制吐剤や補液を投与する

-1.宿酔症状について説明する
    (治療に対する不安が強い場合は、かえって宿酔症状を強くすることがあるので、患者の状態に併せて説明する)
  2.治療中は十分な栄養と水分が大切であることを説明する
     1)お茶、ジュース、または水分を多く含むものを十分に摂取すること
     2)高カロリー、高タンパク食をすすめる;牛乳、乳製品、特にチーズ、魚肉類の摂取、エンシュアリキッドなどの補助食品の摂取
  3.治療中は体力の消耗をさけるよう指導する
     1)軽い運動(散歩など)にとどめ、照射後は特に安静を保持するようにする
     2)十分な睡眠をとるようにする
     3)体調がおかしいと感じたらすぐ報告する
2-2 放射性皮膚炎を起こす恐れがある
  &放射性皮膚炎を理解し、言葉で表現できる
   放射線皮膚炎に対する予防行動がとれる
   出現時早期に医師や看護婦に報告し、適切な処置が受けられる
  $治療開始から終了後症状が改善するまで

-1.皮膚の状態
     1)熱感
     2)軽度の発赤、皮膚の乾燥、掻痒感(20Gy30Gy)
     3)著明な発赤、疼痛(40Gy50Gy)
     4)水泡形成、びらん(6070Gy)

-1.照射部位の皮膚の清潔を保つ
  2.照射後、照射部位のクーリングを行う
  3.皮膚炎を起こした時は医師に報告し、指示を得る
  4.皮膚炎を起こした時は、医師の指示のもと,ステロイドホルモン軟膏を塗布する(照射前にふきとる)
  5.皮膚炎は治療が終了すると回復することを話し、治療が継続出来るようにする

-1.石鹸や薬剤による照射部位の刺激は避け、洗髪時はこすらないようにする
  2.照射部位は、剃刀を使用して傷つけたり、テープなどは使用しない
  3.照射部位の日焼けは避けるために帽子などで保護に努める
  4.爪は短く切っておく
  5.照射後は、爽快感を得られるような適度な照射部位のクーリングを行う
  6.照射部位に症状出現時は勝手にクリームなどを使用せず、医師や看護婦に報告する

2-3 頭部照射により脱毛が起きる

  &脱毛の出現を理解し、言葉で表現できる
   症状出現時早期に対処でき、精神的にも安定した状態で治療を受けることができる
  $治療開始から治療終了まで

-1.脱毛の状態(20Gy)
  2.精神状態(脱毛に対する思い)
  3.理解度
  4.対処能力

-1.頭皮の清潔を保つ
  2.脱毛出現時は、毛とりテープなどでベッド周囲の環境整備をする
  3.脱毛は一時的なものであり、治療が終了したら再び髪は生えてくることを説明し、治療が継続するよう励ます

-1.シャンプーによる洗髪、櫛、ブラシなどの使用を避け、ぬるま湯で洗い流すように指導する
  2.帽子、スカーフなどで頭部を保護し、直射日光が当たらないようにする
  3.毛とりテープなどでベッド周囲の環境整備を促す
  4.薬剤や育毛剤の使用は避け、しばらくは、かつらや帽子などの使用をすすめる
  5.抜け毛と絡まりやすいため、髪はなるべく短くするようすすめる
2-4 照射による脳浮腫のため頭蓋内圧亢進症状をおこしやすい
 &頭蓋内圧亢進症状が早期に発見され、症状が進行しない
 $治療開始から終了まで
 -1.バイタルサイン
  2.意識レベル
  3.神経学的兆候
  4.頭痛
  5.嘔吐の有無
  6.CT、MRIなどの画像写真

-1.ステロイド剤が与薬されることがあるので、正確に与薬する
  2.嘔気、嘔吐時は、医師の指示により制吐剤を使用する

-1.症状出現時は早期に看護婦または医師に報告するように説明する
  2.症状は一時的なもので、悪化ではないことを説明する
  3.症状出現時は安静を促す
  &栄養状態が悪化しない
  $治療開始から終了まで

-1.嘔気、嘔吐の有無
  2.食事摂取量
  3.体重減少
  4.血液データ
  5.食事や症状に対する思い

-1.患者の嗜好に合わせて、食事形態の工夫をし、食欲増進を図る
  2.食事摂取量が減少した際は、エンシュアなどをすすめる
  3.経口摂取量が困難な場合は経管栄養を考慮する
  4.医師の指示で制吐剤や補液を投与する
  5.患者に訴えを聞き、症状に対する思いを把握する

-1.治療中は十分な栄養と水分が大切であることを説明する
    1)お茶、ジュースなどを十分に摂取すること
    2)高カロリー、高タンパク食をすすめる;牛乳、乳製品、特にチーズ、魚肉類の摂取
  2.照射後は、安静を保持するようにする
  3.食事や症状に対する思いを表出し、ストレスをためないようにする
  4.症状は一時的であり、悪化ではないことを説明する
  &放射線治療による副作用について理解でき、言葉で表現できる
   退院後心身共に安定した状態で生活が送られる
   症状出現時、早期に対処行動がとれる
  $治療開始から退院まで

-1.患者の訴え、表情
  2.副作用症状の理解度
  3.症状出現時の対処能力
  4.家族のサポート能力

-1.医師より疾患・放射線治療・副作用の説明を十分に行ってもらえるように配慮し、また、家族にも説明し患者の回復の協力が得られるようにする
  2.医師からの説明で理解不足があれば追加説明を行い、納得した状態で退院出来るようにする
  3.疑問や不安を表出しやすい環境を整える
  4.照射中におきた副作用は、治療終了後時間がたてば、徐々に良くなることを話す

-1.定期検診を受けるようにする
  2.身体の調子が何かおかしいと思ったときは、すぐに診察を受けるよう指導する
  3.安静を保持し疲労を避けるようにし、また睡眠は十分に取るよう指導する
  4.栄養の補給に努めるよう指導する
  5.照射野は照射によって、萎縮し薄くなって受傷しやすくなっているので、強い刺激を避け、寒冷にさらさないよう保護に努めるようすすめる
  6.照射部位の日焼けは避ける(特に治療終了後3カ月間)
  &家族が不安を表出でき、家族ケア、家族サポートを通して患者が支えられる
  $入院から退院まで

-1.家族の表情、言語による表現、態度
  2.家族、患者間の疾患の理解・認識の差
  3.家族の放射線治療に対する認識・理解度
  4.家族の放射線治療の副作用に対する認識・理解度
  5.家族の状況判断能力
  6.家族間のサポートシステム
  7.経済的問題の存在

-1.家族とコニュニケーションをとり、不安や心配事を表出しやすいように受容的態度でかかわる
  2.患者の治療状況及び副作用について説明する
  3.家族内で起きている問題の対処ができているか、必要時相談にのったり、情報の提供を行う
  4.疼痛のために動けない患者の場合、面会の必要性を説明し、促す

-1.家族とコニュニケーションをとり、また気分転換を図るためにも週末外泊などをすすめる
  2.治療の副作用のため食事摂取量が低下することがあるので、その際は患者の好みに応じたさし入れをするようにすすめる
  3.患者とともに家族へも退院時指導を行う
  4.家族に患者のサポートの必要性を説明する