すぽんさーどりんく

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膀胱尿管逆流症患者の看護計画




 膀胱尿管移行部に機能的あるいは器質的な異常により、膀胱壁内尿管の斜行性の欠如、さらには閉鎖不全をきたし、膀胱内の尿が逆行性に尿管・腎盂へと逆流を起こす現象である。膀胱尿中に存在する細菌の移送が容易に起こり、上部尿路・腎の感染を起こしやすく、腎機能低下をもたらす。膀胱尿管逆流は病的現象であり、それ自体は疾患ではない。病因別分類としては、原発性・神経因性・閉塞性・炎症性・医原性・尿管の先天異常に伴うものがある。形態的重症度によって、:尿管のみへの逆流、:尿管・腎盂・腎杯への逆流、:尿管・腎盂の軽度拡張を伴うが腎杯の鈍円化はないがごく軽度のもの、:尿管・腎盂・腎杯の中等度拡張、:高度の尿管蛇行・拡張、腎盂の拡張・腎杯拡張は高度で乳頭陥没がもはやみられないに分類される。

 ・原発性膀胱尿管逆流
膀胱尿管移行部の解剖学的欠損によるもので、先天性の要素が強く、小児に多い。

 ・神経因性膀胱尿管逆流
神経因性膀胱に高率にみられるものである。

 ・閉塞性膀胱尿管逆流
下部尿路の閉塞性疾患により逆流防止機構が阻害され発生する。

 ・炎症性膀胱尿管逆流
急・慢性膀胱炎時に起こり、一過性のもので膀胱壁の炎症が膀胱尿管移行部にも波及して同部の弁機構が阻害されるために起こる。

 ・医原性膀胱尿管逆流
膀胱内外の外科的侵襲によって膀胱尿管移行部の弁機構が阻害され発症する。

 ・尿管の先天異常に伴う膀胱尿管逆流
完全重複腎盂尿管や単一尿管の疾患に多い。



 度重なる尿路感染症(腎盂腎炎と膀胱炎)、上部尿路機能の障害、腎機能障害がみられ、これらは相互に増悪因子となり、腎実質にさまざまな形態変化をきたし、逆流性腎症から腎機能荒廃をもたらすこともある。細菌感染を容易に引き起こしたり、水腎症・水尿管症をおこし腎機能の低下をきたすこともあり、早期に予防することが大切である。



 逆流そのものに基づく症状はほとんどなく、合併症に基づくものである。

 1)尿路感染症
腎盂腎炎や膀胱炎の症状(頻尿・排尿痛・尿混濁・残尿感・発熱・腎部痛など)

 2)高度膀胱尿管逆流による水尿管・水腎症
排尿障害が高度で尿閉状態の場合

 3)腎機能不全
膀胱尿管逆流特異性の症状はなく、慢性に経過し、腎機能が低下する。



 ・静脈性腎盂造影
膀胱尿管逆流存否の有無

 ・膀胱造影(排尿時膀胱尿道撮影・排尿後膀胱尿道造影)
膀胱尿の上部尿路への逆流の確認

 ・膀胱尿道鏡
確実な病因診断に有用

 ・排尿動態検査
膀胱内圧測定、尿道内圧測定、外括約筋筋電図検査、残尿検査

 ・尿検査
尿路感染の有無



 1.保存的治療
腎盂・腎杯の形態に異常がなく、尿感染が容易に消失する場合
1)日常生活上の指導:再感染、腎盂腎炎の急性喚発防止のため、水分多量摂取による利尿をこころがける。排尿は二段排尿とし、夜間も1度排尿するよう指導する。二段排尿は残尿を最小限にすると同時に、逆流尿の残尿となる量を軽減する。また排尿を我慢させないよう注意する。
2)長期化学療法と経過観察:膀胱尿管逆流によって生じた腎感染、膀胱尿管移行部の細菌性炎症の治療と再感染防止の目的で長期化学療法をおこなう。

 2.外科的治療
水腎症のある時、尿感染を除去できない時、治療に抵抗して発熱を繰り返す場合
1)逆流防止術
2)コラ-ゲン注入



 治療の原則としては、膀胱尿管逆流の原因追求とその除去である。最初は保存的療法で経過をみる。小児では成長とともに逆流が消失することが多い。保存的療法の効果がない時は逆流防止術を行う。膀胱尿管逆流は再発の可能性も高く、症状も合併症に基づくもので分かりにくいため、逆流の再発の有無、尿管狭窄の有無をみるために定期的な受診が必要である。



.アセスメントの視点(術前)

 尿路感染症を繰り返し発症するため、排尿痛・腎部殴打痛がある。VURの原因を早期に診断し除去することにより疼痛を軽減することが重要である。保存的治療、化学療法にて症状の軽快が見られない場合は手術の適応となるため、手術に対する不安の軽減に努めなければならない。


.問題リスト(術前)

   〔要因〕・尿の尿管、腎盂への逆流
       ・尿路感染の合併

   〔要因〕・局部の炎症
       ・組織の損傷
       ・不安

   〔要因〕・入院による環境の変化
       ・検査や治療に対する情報不足
       ・検査、処置に対する羞恥心
       ・手術という未知のものとの遭遇
       ・痛み、発熱等の症状の発現
       ・家族からの分離


.看護目標(術前)
  1. 炎症による疼痛を除去し、苦痛が最小限になる。
  2. 疾患、手術に対する不安が軽減され、治療に向けて精神的準備ができる。

.看護問題(術前)

   〔要因〕・尿の尿管、腎盂への逆流
       ・尿路感染の合併

  &腎盂腎炎が起きない。
   尿路感染が予防できる。
   腎盂腎炎の徴候が早期に発見され、速やかに対処できる。また発症時は随伴症状が緩和または消失する。
  $手術前日

-1.バイタルサイン。特に熱型
  2.尿の回数、尿量、尿性状、残尿感の有無とその量
  3.腎部痛、側腹部痛、腎部叩打痛の有無と程度
  4.消化器症状(悪心・嘔吐、食欲不振)の有無と程度
  5.水分摂取量、intakeoutputのバランス

-1.安静が保たれるように、室温、湿度、採光など、静かな環境を調整する
  2.術前の化学療法に伴う作用が患者の心身に与える影響を考慮してケアを実践する
  3.補液の管理(水、電解質の補正)を行う
  4.水分出納をチェックする
  5.随伴症状による苦痛の緩和を図る
  6.尿道バルンカテーテル挿入の場合は、尿路感染予防のため、確実な管理を行う
  7.発熱時は、安静を図り、保温に努める
  8.疼痛時は安楽な体位をとらせ、腹部の温罨法を行い疼痛の緩和を図る
  9.清拭、寝衣交換を適宜行い、清潔に努める
  10.調理の工夫をしながら栄養の管理を行う(高カロリー、高蛋白、ビタミン)
  11.指示により抗生物質を用い、その効果をモニタ-する

-1.痛みなど自覚症状がみられた場合は、我慢せずにすぐ知らせるよう説明する
  2.尿道バルンカテーテル留置中は、体動に注意するよう説明する
  3.膀胱に尿を長時間貯留させることがもたらす問題について説明し、排尿習慣をつけるよう指導する
  4.完全排尿にするため排尿法を指導する(3段排尿法-排尿と排尿の間に軽い運動をし、排尿を3回に分けて行う)

   〔要因〕・局部の炎症
       ・組織の損傷
       ・不安

  &疼痛が軽減したことを言葉で表現する。
   穏やかな表情、リラックスした体位になる。
   活動範囲が広がる。
  $手術前日

-1.言葉による痛みの表現(痛みの部位、性質、程度、痛みの増強への不安と恐れ、痛みが軽減することへの期待)
  2.痛みに関連する非言語的表現(苦痛様顔貌、呼吸促迫、イライラ)
  3.バイタルサイン
  4.食事摂取量
  5.睡眠状態
  6.尿、血液検査

-1.医師より指示されている鎮痛剤を効果的に使用し、その効果を確認する
  2.体位変換、清拭等の処置は、鎮痛剤の使用後に素早く行う
  3.落ちついた環境の整備に努める
  4.不安が訴えやすい雰囲気をつくる
  5.家族の協力を得て孤独感の軽減を図る

-1.疼痛が軽減されない時は、追加で鎮痛剤が使用できることを説明する
  2.鎮痛剤使用後の活動性を高めることの利点について説明する

   〔要因〕・入院による環境の変化
       ・検査や治療に対する情報不足
       ・検査、処置に対する羞恥心
       ・手術という未知のものとの遭遇
       ・痛み、発熱等の症状の発現
       ・家族からの分離

  &検査、治療の必要性が理解でき納得できたことを言葉で表現できる。
   通常の生活態度がとれる。
   不安がなくなったことを言葉で表現できる。
  $手術前日

-1.疾患、術前検査、手術に関する患者の情報量とその理解度
  2.表情、言葉、態度の表出状況と不安の程度との関係
  3.食欲、食事摂取状況
  4.睡眠状況
  5.排尿の状況
  6.サポ-トシステム
  7.性格傾向
  8.これまでに体験した危機的状態での対処方法、相談できる人の有無

-1.術前検査の説明や術前オリエンテ-ションを落ちついて聞くことができるよう、以下の点に配慮した雰囲気づくりをする
     1)余裕をもった時間
     2)羞恥心、プライバシ-を配慮した場所
     3)説明者の態度
  2.心配事や不安を表出しやすいように受容的態度で接し患者・家族と信頼関係を築く
  3.表出した不安に対し誠意をもって対応する。内容によっては医師の参加を求める
  4.気分転換の方法を患者と共に考える。時にはキ-パ-ソンも交えて検討する
  5.睡眠が障害されている場合は、医師と相談のうえ睡眠剤を用いる

-1.術前検査や術前・術後オリエンテ-ションを、タイムスケジュ-ルも含めてわかりやすく説明する
  2.質問を促し、得た情報を不十分な理解のままにしないことを伝える
  3.検査や手術に対する心配や不安について、それらを訴えてよいこと、また受け止める用意があることを伝える
  4.必要時、睡眠剤が使用できることを伝える



.アセスメントの視点(術後)

 術後の早期合併症としては、縫合不全、感染症などの出現に注意する。尿管カテーテルが抜去される6~8日目の間に尿道痛、陰部の異和感を訴えることがあるので、その緩和に努める。退院後は尿管逆流という現象を起こさせないように規則正しい生活が出来るよう指導が必要となる。


.問題リスト(術後)

   〔要因〕・手術結果が分からないこと
       ・尿道バルンカテーテル、ドレーンの挿入という状況
       ・創部痛
       ・体動制限
       ・疾患および手術に対する情報量の不足
       ・疾患および手術に対する理解不足
       ・社会的役割の変化

#2.縫合不全
   〔要因〕・激しい体動
       ・尿管カテーテルの抜去

#3.感染
   〔要因〕・カテーテルの閉塞
       ・尿漏れ、尿道バルンカテーテル挿入による逆行性感染

   〔要因〕・尿管カテーテル、尿道バルンカテーテルの挿入
       ・尿管カテーテルの閉塞
       ・膀胱刺激症状
       ・体動の制限

   〔要因〕・尿路感染の恐れ
       ・日常生活への影響
       ・再発しやすい


.看護目標(術後)
  1. 術後合併症が予防され、正常な腎機能、排尿が維持される。
  2. 手術による身体的苦痛の緩和を図り、精神的に安定して過ごせる。
  3. 退院後の生活の留意点について理解できる。

.看護問題(術後)

   〔要因〕・手術結果が分からないこと
       ・尿道バルンカテーテル、ドレーンの挿入という状況
       ・創部痛
       ・体動制限
       ・疾患および手術に対する情報量の不足
       ・疾患および手術に対する理解不足
       ・社会的役割の変化

  &表情、態度が穏やかになる。
   手術結果を冷静に聞くことができる。
   不安、恐怖がなくなったことを言葉で表現できる。
  $術後1~2日

-1.不安に関する言動
  2.手術結果に対する受け止め方、理解度
  3.尿道バルンカテーテル、ドレーン挿入部の状態
  4.尿道バルンカテーテル、尿管カテーテルからの尿の流出状態、量、性状
  5.睡眠状態
  6.創部痛の程度
  7.社会的役割の変化に対する考え方
  8.手術結果および今後の生活に対する家族の考え方

-1.不安を表出できる雰囲気をつくる
  2.安静度内で安楽な体位を工夫する
  3.可能なかぎり家族の面会を許可し患者の心理的安定を図る
  4.医師の指示に基づき鎮痛剤を用いるとともにその効果を確認する

-1.手術に対する医師の説明をどう受け止めているか判断し、必要に応じ補足する
  2.尿量、尿性状等のチェックにより腎機能が順調であることを説明する
  3.手術に対する不安や恐れ、その他何でもすぐ訴えてよいこと、受け止める用意があることを伝えておく
  4.術後の経過、回復過程をわかりやすく説明する

   〔要因〕・激しい体動
       ・尿管カテーテルの抜去

  &尿管と膀胱の新吻合部の安静が保たれ縫合不全を起こさない。
   尿道バルンカテーテル、尿管カテーテルからの尿の流出が良好である。
  $術後7日

-1.ドレーンからの排液状態
  2.尿道バルンカテーテル、尿管カテーテルからの尿の流出状態、量、性状
  3.凝血塊の有無
  4.カテーテル類の屈曲、圧迫の有無
  5.体動(安静)の状況
  6.各カテーテル挿入に関する患者の訴え
  7.体動制限による患者の苦痛
  8.痛みの訴え(部位、程度)

-1.体動により尿管カテーテル等を不用意に抜去しないよう体位を工夫し、固定を十分行う
  2.膀胱・尿管吻合部の安静を保つために用いられる尿管カテーテルが閉塞しないように、屈曲・圧迫に注意する
  3.カテーテル内の細菌の逆流やカテーテルの閉塞を予防するために水分摂取を促し、一定の尿量を保つ(水分摂取1日15002000mlを目安とする)
  4.カテーテル挿入に伴う異和感、苦痛の訴えに対して十分耳を傾け、安楽に配慮する
  5.縫合不全発症時、ただちに医師に報告し、患部の安静に努め指示を受ける

-1.カテーテル留置の目的についてよく説明し不用意に抜去しないように、体動について具体的に説明する
  2.便通の調整を図る
     1)排便時に強い腹圧をかけない
     2)水分摂取を励行する
     3)必要に応じて緩下剤を使用する
     4)繊維の多い食品を摂る
   〔要因〕・カテーテルの閉塞
       ・尿漏れ、尿道バルンカテーテル挿入による逆行性感染

  &尿路感染が起こらない。
   カテーテルよりの尿の流出が良好である。
   感染の徴候が早期に発見され、速やかに対処できる。
   随伴症状が軽減または消失する。
  $術後4~7日

-1.カテーテルよりの尿流出状態、量、性状
  2.凝血塊によるカテーテル閉塞の有無
  3.尿量、性状
  4.カテーテル挿入部の発赤、腫脹、疼痛の有無
  5.ガーゼ汚染の有無と浸出液の量
  6.熱発の有無と程度、熱型
  7.疼痛の有無、部位、性質、持続時間
  8.検査結果(培養検査など)

-1.カテーテルの取扱いは清潔操作で行う
  2.凝血塊によるカテーテル閉塞の予防やカテーテル内の細菌の逆流を予防するために水分を多量摂取するように努める
  3.カテーテル挿入部、陰部の清潔に努める
  4.指示により抗生物質を用い、その効果の確認を行う
  5.感染症状出現時はただちに医師に報告し、指示を受ける

-1.尿路感染の症状について指導し、自覚症状があるときはすぐに連絡するよう説明しておく
   〔要因〕・尿管カテーテル、尿道バルンカテーテルの挿入
       ・尿管カテーテルの閉塞
       ・膀胱刺激症状
       ・体動の制限

  &疼痛、異和感が軽減または消失する。
  $術後4~8日

-1.カテーテルの挿入状態
  2.カテーテルよりの尿流出状態、尿量、状態
  3.疼痛、掻痒感の部位、程度、性質、頻度
  4.言動、表情、動作
  5.睡眠状況

-1.尿道バルンカテーテル、尿管カテーテルの圧迫、屈曲がないように管理する
  2.十分な水分摂取により尿量を確保する
  3.医師の指示により鎮痛剤を用いるとともに、その効果を確認する
  4.安楽な体位の工夫をする
  5.尿道、陰部への精神集中の分散をはかるため、患者のライフワークや趣味を勧める

-1.不安を除くために病態についての医師の説明を補足する
  2.疼痛、掻痒感のある時は我慢せずにすぐに連絡するように説明しておく
   〔要因〕・尿路感染の恐れ
       ・日常生活への影響
       ・再発しやすい

  &退院後の生活の留意点について述べることができる。
  $退院日

-1.不安に関する言動、表情、行動
  2.退院時指導の受け止め方、理解度
  3.排尿状態と水分摂取状態

-1.不安を表出できる雰囲気をつくる
  2.不安要因の把握

-1.退院後の生活管理について指導する
     1)尿意があれば我慢せずに、すぐ排尿する
     2)完全に排尿させるため二段排尿を行う
     3)感染防止のために処方された内服薬を正しく服用する
     4)感染防止のため、制限がなければ飲水に心掛ける
     5)熱発、膀胱刺激症状、側腹部痛などを認めたときは受診する

     6)術後の経過および一般状態を観察するため、確実に定期受診をする