パーキンソン病患者の標準看護計画
パーキンソン病とは
中高年の男女に発症する進行性の神経変性疾患であり、神経難病の一つとして厚生省特定疾患に指定されている。病態として不明な点もあるが、中脳の黒質病変のためドーパミンの産生が減少し、それより中枢側の神経系の機能障害が起こる。内科的薬物療法によってADLも比較的よい状態が長期に維持できる。また類似の症状をきたすパーキンソン症候群との鑑別が必要である。
症状
運動症状、自律神経症状、精神症状があり、4大主徴は筋固縮、無動、振戦、姿勢反射障害である。通常一側性で始まり、数年以内に両側性に移行する。緩徐進行性である。
Yahrの重症度分類(Ⅰ度~Ⅴ度)と生活機能障害度(Ⅰ度~Ⅲ度)は治療や予後の判定に用いられる。
1.運動症状
筋固縮(歯車様)、無動(仮面様顔貌、小刻み歩行、すくみ足、小声、書字障害)、静止時振戦(丸薬丸め運動)、姿勢障害(前傾前屈姿勢、斜め徴候、転倒傾向、突進現象)
2.自律神経症状
起立性低血圧、便秘・排尿障害、脂漏、流涎、インポテンツ
3.精神症状
抑鬱、幻覚・妄想、認知症
検査
MRI
脳血流SPECT
脳波
血液検査
自律神経機能検査
認知症検査(長谷川式スケール)
治療
通常は、薬物療法を主体とし運動療法を平行して行う。治療の基本は、治療薬をできるだけ低用量とし、長期にわたる治療に伴う副作用を避けることである。また、QOLを少しでも高め、合併症を予防することに重点がおかれる。
1.薬物療法
1)ドーパミン前駆薬(ネオドパストン、メネシット)
2)ドーパミン作動薬(パーロデル、ペルマックス、ドミン、シンメトレル)
3)抗コリン薬(アーテン)
4)ノルアドレナリン前駆薬(ドプス)
5)補助治療薬(筋弛緩剤、精神安定剤、脳代謝改善剤、精神賦活剤)
2.運動療法
1)理学療法
2)作業療法
3.外科療法(脳定位固定手術)
適応は片側性で薬物療法抵抗性の振戦を主体とする
経過と管理
パーキンソン病は、手がふるえる、つまずきやすい、動作が緩慢になる、疲れる等の症状で始まることが多く、治療は主に外来通院で行われる。徐々に歩行困難、構音障害、嚥下障害、排尿障害等が現れ、ADLが低下すると在宅療養が不可能となり、投薬の再考のため入院となる。薬物療法が効果的に行われるために、服薬の管理と指導を行い、症状の観察および治療薬の副作用は出ていないか観察する。また、合併症の予防と闘病意欲を維持できるよう精神的に支援していくことも重要である。
1.治療薬の副作用
1)消化器症状: 胃部不快感、嘔気、食欲不振、便秘
2)不眠
3)振戦以外の不随意運動
4)wearing-off現象: 効果持続時間が短縮してくるために起こる、症状の日内変動
5)on-off現象: スイッチが入ったり切れたりするように動作が円滑になったり(on)、急に動けなくなったり(off)すること
6)精神症状: 幻覚・妄想、うつ傾向などが現れる
7)悪性症候群: 急に休薬した時に高熱、重症の筋固縮、意識障害、高CPK血症が出現することがある
2.合併症
肺炎、尿路感染、褥瘡、骨折などがある。
合併症治療が主になっているとき、薬の服用ができなかったりすることによりパーキンソン病の症状が悪化することがある。
3.心理面
病気が進行していくことや、薬を生涯服用しなければならないことを不安に思っていることが多い。
また、症状の増悪により思考や感情の閉塞がもたらされると同時に、動くことへのこだわりがみられやすい。
看護計画
Ⅰ.アセスメントの視点
運動障害、自律神経障害、精神障害は徐々に進行していくため、長期にわたる観察が必要である。投薬により症状は改善されるが、副作用の出現や休薬でADLが低下することもあるので注意する。またADLを維持するために積極的に動くよう指導することも重要である。
Ⅱ.問題リスト
#1.転倒・転落
[要因]・運動症状(筋固縮、無動、振戦、姿勢障害)、自律神経症状(起立性低血圧)、精神症状
・薬物療法の副作用
#2.栄養状態の悪化
[要因]・運動障害による食事摂取行動の困難
・精神症状による食欲低下
・薬剤の副作用による消化器症状
・嚥下障害
#3.セルフケアの不足
[要因]・筋力低下や動作能力の低下による運動障害
・意欲や関心の減退
・依存心
#4.便秘・排尿障害
[要因]・自律神経障害
・運動量の低下
・運動障害による排泄行動の困難
・薬物療法の副作用
#5.コミュニケーションの障害
[要因]・精神症状の悪化
・口唇、下顎、舌、顔面筋の振戦
・構音障害
・書字障害
・自信喪失
#6.不眠
[要因]・薬物療法の副作用
・運動症状による寝返り困難
・精神症状
#7.退院後の日常生活の不安
[要因]・疾患の経過、予後
・身体不自由による就労、ADLの障害
・コミュニケーションの障害による社会的孤立
・抗パーキンソン病薬の生涯服用
#8.家族の不安
[要因]・病状の悪化、予後
・日常生活
・疾患についての知識の不足
・療養生活に必要なサポート
・経済面
#9.肺炎
[要因]・誤嚥
・咳嗽力の低下による喀痰の貯留
・体動制限
#10.ボディーイメージに関連したストレス
[要因]・顔貌や姿勢の変化
・社会的役割や家庭における役割の変化
#11.褥瘡
[要因]・体動不足による同一部位の圧迫
・栄養障害
・不十分な保清
#12. 尿路感染
[要因]・排尿障害
・水分摂取の不足
・運動量の低下
Ⅲ.看護目標
1. 疾患について正しく理解できる
2. 治療薬を正しく服用し、副作用についても理解できる
3. 危険なことがなく日常生活が送れる
4. ADLを維持するための訓練をし、退院に向けての準備ができる
Ⅳ.看護問題
#1.転倒・転落
[要因]・運動症状(筋固縮、無動、振戦、姿勢障害)、自律神経症状(起立性低血圧)、精神症状
・薬物療法の副作用
&外傷を起こさない。
$退院まで
O-1.姿勢(臥位、坐位、立位、歩行)
2.筋力
3.関節可動域
4.踏み出し第一歩の状態
5.振戦
6.起立性低血圧の有無
7.精神状態
8.薬効の日内変動
9.環境整備の状況
T-1.第一歩踏み出しには、声かけをし、リズムによって誘導する
2.振戦などがあり危険と思われる場合は、付き添い、誘導する
3.必要時、杖、歩行器、シルバーカー等を使用する
4.腕を振って、歩幅を広くして歩く訓練をする
5.歩行時はトレーニングシューズを使用する
6.歩行路に障害物を置かない
7.ベッドの安定性、ベッド柵、ナースコールの位置などを配慮する
E-1.患者と家族に、疾病の特徴と安全を確保するための方法について説明する
#2.栄養状態の悪化
[要因]・運動障害による食事摂取行動の困難
・精神症状による食欲低下
・薬剤の副作用による消化器症状
・嚥下障害
&必要最低限の経口摂取量が維持でき、著しい体重減少がみられない
$退院まで
O-1.食欲、食摂取状況
2.体重の変化
3.食事摂取動作の自立度
4.嚥下障害の有無と程度
5.血液データ
T-1.嚥下しやすい形態の食事を選択する
2.自立して食事摂取ができるよう、食器類やスプーンなど補助用具を工夫する
3.食事介助する場合は、慌てずに摂取できるよう患者のペースを配慮する
4.食欲が増進するよう、患者の嗜好を取り入れたり、楽しい雰囲気を作ったりする
5.摂取時は嚥下しやすいよう、坐位で摂取するよう促す
E-1.患者と家族に対して、嚥下しやすい食事形態や捕食について指導する
2.患者と家族に対して、症状の日内変動を踏まえて食事時間や摂取方法を工夫するよう指導する
#3.セルフケアの不足
[要因]・筋力低下や動作能力の低下による運動障害
・意欲や関心の減退
・依存心
&セルフケア能力を維持できる
$退院まで
O-1.セルフケア(移動動作、食事動作、清潔動作、排泄動作、更衣・整容動作)のレベル
2.姿勢(臥位、坐位、立位)
3.筋力
4.関節可動域
5.歩行状態
6.振戦
7.自律神経症状
8.精神症状
9.薬効の日内変動
10.依存的言動の有無
11.疾患や治療に対する理解度
T-1.セルフケアのレベルに応じて不十分な動作を援助する
2.必要時、補助用具(杖、ポータブルトイレなど)を用意する
3.理学療法士、作業療法士と連携し、ベッドサイドでの訓練を行う
E-1.セルフケア能力を維持することは、病状の進行予防に役立つことを説明する
#4.便秘・排尿障害
[要因]・自律神経障害
・運動量の低下
・運動障害による排泄行動の困難
・薬物療法の副作用
&正常な排尿、排便パターンを維持できる
$退院まで
O-1.排便パターン(回数、量、性状)
2.腹部症状の有無(腹痛、腹部膨満、嘔気)
3.腸蠕動音の有無
4.排尿パターン(回数、1回尿量)
5.1日尿量
6.排尿異常(尿失禁、残尿感)
7.夜間の排尿状態
8.intake、outputのバランス
9.排泄行動の自立レベル
10.日常の活動量
T-1.繊維を多く含む食物の摂取を促す
2.腹部マッサージを促す
3.必要なら緩下剤など使用する
4.1日1.5リットル以上飲水を促す
5.尿意がはっきりしない場合は、3~4時間毎に排尿を誘導する
6.残尿感や排尿困難がある場合は間歇導尿を行う
7.排泄行動の自立度を考慮して、必要なら尿器、ポータブルトイレを設置する
8.規則的な生活と適度な運動を促す
E-1.適正な水分摂取と繊維の多い食物の摂取が大切であることを指導する
#5.コミュニケーションの障害
[要因]・精神症状の悪化
・口唇、下顎、舌、顔面筋の振戦
・構音障害
・書字障害
・自信喪失
&コミュニケーションの方法が確立し、意志の疎通を図ることができる
$退院まで
O-1.声の質
2.声量(小声)
3.話し方(抑揚、早口)
4.表情の変化
5.精神症状の有無と程度
6.書字状態(小字症の有無、線のゆがみ)
7.流涎の有無と程度
T-1.患者がリラックスして会話できるように、ゆったりとした態度で接する
2.必要時、紙や文字板を活用する
3.発声練習や書字練習を勧める
4.会話への意欲を損なわせないように励ましながら、意図的に会話の機会を持つ
E-1.文章を短文節にくぎり、ゆっくりとリズムをつけて話すよう指導する
2.口を大きくあけ、大きな声で話すよう指導する
3.積極的に会話をするよう指導する
4.ゆっくりと大きく書くよう指導する
#6.不眠
[要因]・薬物療法の副作用
・運動症状による寝返り困難
・精神症状
&夜間の熟睡感が得られる
$退院まで
O-1.睡眠状況(入眠困難、断眠、熟睡感の有無)
2.睡眠中の体動の状況
3.日中の活動状況
4.精神症状の程度
T-1.睡眠がとれるように環境(室温、湿度、照明、騒音等)を整える
2.必要時、夜間の体位変換を行う
3.医師より睡眠薬投与の指示がある場合、確実に内服させる
E-1.症状に応じて、できる範囲で日中の活動量を多くし、昼夜のめりはりをつけるよう指導する
#7.退院後の日常生活の不安
[要因]・疾患の経過、予後
・身体不自由による就労、ADLの障害
・コミュニケーションの障害による社会的孤立
・抗パーキンソン病薬の生涯服用
&退院後の生活がイメージでき、身体的、精神的なサポートを受けられる環境が整う
$退院まで
O-1.疾患の認識・理解度
2.家庭環境
3.不安の表出状況(表情、言語、態度)と不安の程度
4.ADLの自立度
5.サポートシステムについての知識の有無
T-1.患者が不安を表出できるよう、支持的態度で接する
2.医師から十分説明を受けることができるよう配慮する
3.退院後の生活に自信が持てるよう励まし、リハビリテーションを勧める
4.社会活動にも積極的に参加していくよう励ます
5.家族との関わりを積極的に持つ
E-1.リハビリテーションの継続と適切な内服が、現状維持につながることを説明する
2.患者、家族に対して、ADLが拡大できるよう、環境整備の必要性や注意点を説明する
3.薬の効き方や体調を踏まえて、生活リズムを作っていくよう指導する
4.必要時、福祉制度について説明する
#8.家族の不安
[要因]・病状の悪化、予後
・日常生活
・疾患についての知識の不足
・療養生活に必要なサポート
・経済面
&不安が軽減し、患者を支えることができる
$退院まで
O-1.家族の言動、表情、不安の訴え
2.家族と患者の人間関係
3.家族間の連携
4.家族の疾患に対する知識、理解度
5.経済的問題の存在
T-1.家族とコミュニケーションを密に図り、不安の表出を促す
2.家族が抱えている問題で解決困難な場合は、相談にのり、対処方法を検討する
E-1.家族が疾患についての理解を深められるよう、必要な情報を提供する
2.家族に患者のサポートの必要性を説明する
3.家族に継続が必要なケア(食事、服薬、受診、リハビリ等)について指導する
#9.肺炎
[要因]・誤嚥
・咳嗽力の低下による喀痰の貯留
・体動制限
&喀痰の喀出が十分にできる
$退院まで
O-1.バイタルサイン
2.喀痰の喀出状況、性状、量
3.喘鳴、肺異常音の有無
4.嚥下障害、誤嚥の有無
5.意識レベル
T-1.喀痰の喀出を促すため、吸入、タッピング、バイブレーションを実施する
2.必要時、吸痰を行う
3.臥床による喀痰の貯留を防ぐため、2時間毎に体位変換を行う
E-1.喀痰を喀出する重要性について説明し、嚥下してしまわないように指導する
2.誤嚥を防ぐため、食事形態や体位、食べる早さに留意するよう指導する
#10.ボディーイメージに関連したストレス
[要因]・顔貌や姿勢の変化
・社会的役割や家庭における役割の変化
&自尊心を喪失せず、セルフケア活動を支障なく行える
$退院まで
O-1.ボディーイメージの変化に対する否定的な言動
2.ADLの自立度
3.社会的役割、家庭における役割の遂行状況
T-1.患者の訴え、思いを傾聴し、率直に受け止める
2.患者が自己の肯定面を見いだし、自尊心が保たれるように支持的な態度で接する
3.セルフケアが維持できるよう必要以上の手出しを抑え、援助する
E-1.リハビリテーションの継続が症状を緩和し、確実な内服が病状維持につながることを説明する
2.できる範囲での社会的役割や家庭における役割を、積極的に遂行すべきであることを説明する
#11.褥瘡
[要因]・体動不足による同一部位の圧迫
・栄養障害
・不十分な保清
&褥瘡好発部位に発赤やびらんがみられない
$退院まで
O-1.皮膚の状態(緊張度、湿性度、発汗の有無等)
2.体重、るいそうの程度
3.体動の程度
4.栄養状態(血液データ)
5.intake、outputのバランス
T-1.好発部位の減圧のため必要に応じて2時間毎の体位変換を行う
2.皮膚の湿潤を避け、清潔の保持ができるよう援助する
3.必要時、エアーマットレスを使用する
4.栄養価が高く、バランスのとれた食事摂取を配慮する
E-1.患者と家族へ褥瘡の要因や予防の為の生活上の留意点(体動、栄養、清潔)を指導する
#12.尿路感染
[要因]・排尿障害
・水分摂取の不足
・運動量の低下
&尿量や性状が正常に保たれ、尿路感染を起こさない
$退院まで
O-1.排尿パターン(回数、1回尿量)
2.1日尿量
3.排尿異常(尿失禁、残尿感)
4.尿の性状、残尿量
5.発熱の有無
6.intake,outputのバランス
7.排尿行動の自立度
T-1.1日1.5リットル以上水分摂取する
2.尿意がはっきりしない場合は、3~4時間毎に排尿を誘導する
3.残尿感や排尿困難がある場合は、間歇導尿を行う
4.必要なら尿器、ポータブルトイレを設置する
5.陰部の清潔ケア
E-1.水分摂取の必要性を指導する
2.膀胱内に尿を長時間貯留させないよう、尿意があれば我慢せずに排尿することが重要であることを説明する