劇症肝炎患者の標準看護計画-037
劇症肝炎とは
劇症肝炎は、元々肝疾患を有しない人に急激な肝障害が生じ肝臓の広範壊死に基づいて発症より8週間以内に急速な肝不全症状が現れる肝炎で、肝萎縮、進行性の黄疸、精神症状を伴い短期間のうちに死亡する予後の極めて不良な症候群である。なかでも肝性昏睡は疾患の重症度を知るうえで有力で発症前に健康であった症例では特に重要視されるべき症状である。急性ウイルス肝炎から劇症肝炎になる率は0.1%と言われている。性別差は見られず発生年齢は全年齢層に及ぶが、特に20~50歳代に多い。我が国における劇症肝炎の成因としては、ウイルス性と薬剤性の二つを含んでいる。90%以上がウイルス性劇症肝炎でありいずれの肝炎ウイルスによっても劇症化が起こり得る。予後は強力な治療にもかかわらず生存率は20%以下であり、発生後1~3週間以内に死亡する例が多い。特に高齢者では数%しか救えない。
症状
自覚症状
全身倦怠感、発熱、黄疸、悪心、食欲不振、腹痛があるが特に肝性昏睡に伴う意識障害は必発の症状である。
肝性昏睡度の分類
1.前昏睡期
前駆期 睡眠・覚醒リズムの逆転、多幸気分、抑うつ状態になるが日常接していないと異常と気づかないこともある
2.昏迷期
切迫昏睡 指南力(時、場所)障害、物を取り違える、異常行動(お金をまく、化粧品をゴミ箱に捨てる)、傾眠状態(普通の呼びかけで開眼し会話ができる)、記名力の低下
・興奮状態がない
・尿、便失禁がない
・羽ばたき振戦がある
昏迷 しばしば興奮状態またはせん妄状態を伴い、反抗的態度をみせる(ほとんど眠っている)
・羽ばたき振戦がある
・指南力が高度に障害される
3.昏睡期 昏睡 完全な意識の消失、痛み刺激には反応する
・刺激に対して払いのける動作をしたり、顔をしかめたりする
痛み刺激にも全く反応しない
他覚症状
肝性口臭、羽ばたき振戦、半数例で発熱がないのに頻脈(100/分以上)がみられる
合併症
脳浮腫、感染症、腎不全、出血
検査
• EEG
• USG
• CT
• 血液検査:トランスアミナーゼ(GOT,GPT)、T-Bil、血清アルブミン、コレステロール、コリンエステラーゼ、プロトロンビン時間、ヘパプラスチン、アンモニア
治療
1.全身管理、合併症対策
1)肝不全のため、体内に蓄積した毒物の排除と不足物質の補給を行う
・高アンモニア血症と腸管由来の有害物質抑制のために蛋白制限、ラクツロ-ス内服、特殊アミノ酸製剤(アミノレバン)の点滴、腸管細菌の殺菌薬(カナマイシン)の投与を行う
・電解質異常、低血糖の予防のためブドウ糖を主体とした補液、ビタミン、ミネラルの補給を行う。
2)肝細胞壊死の阻止、肝再生の促進のためグルカゴン-インスリン療法を行う
3)出血傾向改善のために新鮮凍結血漿、ビタミンK投与を行う
4)合併症予防
・脳浮腫対策のため副腎皮質ホルモン剤投与、マンニト-ル、グリセオ-ルの点滴を行う
・DICの予防のためにヘパリン、およびFOYの投与を行う。
・消化管出血の予防のために制酸薬、H2受容体拮抗薬、粘膜保護剤の投与を行う
・腎不全の予防のために低蛋白血症、循環不全に注意する。(血液透析をすることもある)
・感染症予防のために抗生物質の投与を行う
5)呼吸管理のために低O2状態、呼吸性アルカロ-シスの改善(O2吸入、O2テント、気管切開、気管内挿管)を行う
6)水・電解質の管理のために水・電解質の平衡を厳重にチェックする
看護計画
Ⅰ.アセスメントの視点
急速に肝不全が進行することにより悪心、嘔吐、倦怠感、発熱、黄疸といった苦痛・不快を伴うことが多く、重篤な合併症が突然出現し更に急速に進行する。したがって早期に異常を発見し対処することが重要である。
肝性脳症のため意識障害が出現するとベットからの転落、必要な治療に暴れて抵抗する、治療上必要なチュ-ブを抜去する、食事を誤嚥するなど安全を確保できない状態となる。そのため常に昏睡度、精神神経徴候を把握するとともに急激な変化に対応するための全身状態を観察することが大切である。また、患者の急激な変化による患者・家族の不安や戸惑いが大きく精神的サポ-トが必要となる。
Ⅱ.問題リスト
♯1.意識レベル低下による危険行動の可能性
〔要因〕・高アンモニア血漿
・アミノ酸代謝異常
♯2.病状の急激な進行による患者・家族の不安
♯3.DICの合併や凝固能の低下による出血傾向
♯4.低蛋白血症や循環不全による腎不全
♯5.脳浮腫、末梢循環障害、肺浮腫などによる呼吸障害
♯6.免疫能低下、浮腫ライン類の留置による感染
♯7.血液汚染物の誤った取り扱いによる他者への感染
Ⅲ.看護目標
1. 意識レベル低下による危険が防止され安全に過ごすことができる
2. 必要以上に不安を抱かず治療がうけられる
3. 種々の合併症が予測でき、異常を早期に発見することでいち早く対処がうけられる
4. 患者・家族が肝炎ウイルスに対し正しい理解ができ他への感染を防止できる
Ⅳ.看護問題
♯1.意識レベル低下による危険行動の可能性
〔要因〕・高アンモニア血漿
・アミノ酸代謝異常
&意識レベル低下による危険防止が図られ、適切な治療が受けられる
$発症から3週間
O-1.昏睡のレベル
2.性格、行動パターン
3.検査データ(NH3、Hpt、Che、凝固能データ)
4.呼吸状態
5.排便状況(回数、性状、量)
6.出血の有無
T-1.排便コントロール(ラクツロ-ス、坐薬、GEなどにより1回/day以上のコントロールをはかる)
2.不穏・興奮の強い場合は、安全のため抑制を考慮し危険防止を図る(抑制の際には各勤務毎に皮膚の状態を観察する)
3.意識レベル低下により経口摂取困難を判断した場合は経口摂取を中止する
E-1.家族に抑制の際、必要性を十分に説明する
♯2.病状の急激な進行による患者・家族の不安
&医師、看護婦より適切な説明を受けることで、必要以上に不安を抱かず治療が受けられる
$発症から3週間
O-1.患者、家族の言動、表情、反応
2.疾患に関する理解の程度と受け入れ具合
3.不安の内容
T-1.訴えには十分耳を傾け、不安が表出しやすい雰囲気づくりに努める
2.患者、家族へのムンテラ内容の把握と統一
3.意識レベルに関わらず処置の前には必ず声かけをする
4.家族に対し医師より病状の説明をし、家族の理解度を看護婦は把握する
-1.意識レベルによって、患者に対し病状や処置の説明を行い協力を得る
2.不安なことは、何でも質問するように説明する
♯3.DICの合併や凝固能の低下による出血傾向
&出血が最小限にとどまり肝障害が進行しない
$発症から3週間
O-1.血液デ-タ;Hb、Ht、RBC、血小板、ヘパプラスチン、ATⅢ、FDP、プロトロンビン時間
2.口腔粘膜などからの出血の有無
3.胃チュ-ブからの排液の性状
4.便の性状、潜血反応
5.腹部症状、腹部膨満の有無
6.尿量;出血性ショック時乏尿となる
7.末梢循環の状態
8.各種カテ-テル挿入部、注射後の止血状態
T-1.胃粘膜保護剤、止血剤などの確実な投与
2.輸液・輸血の管理
3.採血後は止血を十分にする
4.意志の疎通を図り、不安などのストレスの除去に努める
E-1.歯ブラシは軟らかい毛のものを使用、爪を短く保つ、皮膚の掻痒感がある時もむやみにかかない、外傷に十分注意するように説明する
♯4.低蛋白血症や循環不全による腎不全
&循環血液量が維持され腎障害を起こさない
$発症から3週間
O-1.出血の有無
2.in take-out putのバランス
3.感染の徴候
4.検査データ(Cr、BUN、K、Na、Cl、CRP、ESR…)
5.体重の推移
T-1.脱水、感染、出血などによる異常を認めた場合直ちに医師に報告する
♯5.脳浮腫、末梢循環障害、肺浮腫などによる呼吸障害
&呼吸状態が悪化しない
$発症から3週間
O-1.呼吸状態(呼吸数、リズム、深さ、呼吸困難)
2.肺雑音の有無、喀痰の性状、量
3.in take-out putのバランス
4.意識レベル、チアノ-ゼ、四肢冷感、瞳孔、けいれんの有無の観察
5.胸部X-P
T-1.急変に備えて気管内挿管、吸引の準備を行う
2.呼吸困難時は安楽な体位を保ち、意識レベルが低下した場合は気道を確保する
3.酸素吸入を行う
♯6.免疫能低下、浮腫ライン類の留置による感染
&感染の症状や徴候を示さない
$発症から3週間
O-1.検査デ-タ;WBC、CRP、喀痰、血液、尿培養など
2.発熱の有無
3.胸部X-P
4.各種ラインの挿入部の状態
5.皮膚、粘膜などの状態
T-1.カテーテル挿入部の清潔保持
2.処置時の清潔操作
3.身体の清潔保持
E-1.各種ラインの挿入による感染の危険性を説明する
♯7.血液汚染物の誤った取り扱いによる他者への感染
&医療従事者、家族が肝炎ウイルスに対し正しい理解ができ感染への予防行動をとることができる
$退院まで
O-1.患者・家族の肝炎ウイルスに対する理解度、日常生活行動
T-1.血液、分泌物、排泄物を取り扱う際には手袋を使用し、他者に触れることのないよう処理する
2.その他の患者に使用した物品の取り扱いは肝炎ウイルスの感染予防マニュアルに準ずる
E-1.患者・家族に肝炎ウイルスの感染の危険性と血液、分泌物、排泄物などの汚染物の処理方法を指導する