頚椎後縦靱帯骨化症患者の看護計画
頚椎後縦靱帯骨化症とは
脊柱管の前壁、すなわち椎体椎間板の後面をおおっている頚椎後縦靱帯が、肥厚、骨化して、脊髄を圧迫する疾患であり、原因は明らかにされていない。圧迫・変形された脊髄は乏血性、静脈うっ滞を伴い、また頚椎運動という動的因子が、神経症状の発現に重要なかかわりあいをもつ。レントゲン写真上、骨化形態は分節型、連続型、混合型に分類される。頚椎側面像前後径に対する骨化の占拠率が40%を越えると、麻痺の発生をみることが多い。また本症は、脊髄圧迫症状の原因疾患として、我が国では厚生省の特定疾患となっている。なお、胸椎・腰椎部にもみられやすく、同時に黄色靱帯骨化を合併することもある。
アセスメントの視点
本症は、肩凝りなどの軽度な症状から、徐々に脊髄圧迫症状が進んでいくため、経過が長く、患者の苦痛も経過とともに強くなっていく。また、壮年期以降に発症する場合が多く、運動障害により、社会活動が障害されることの精神的な苦痛が大きいと考えられる。そのため、患者の症状に対する受け入れや、今後の社会活動への思いを知りながら、精神面の援助や生活面での介助を行って行くことが大切である。
症状
頚椎可動性の減少、頚部痛、肩凝り、上肢のしびれ、疼痛等で始まり、徐々にあるいは外傷で急に、脊髄症状(四肢の運動・知覚障害・腱反射の異常、病的反射、直腸・膀胱障害など)を呈するようになる。
検査
• 側面断層撮影
• MRI
• ミエログラフィー
• CTスキャン
• 筋電図
• SEP
治療
1.保存的治療
頚椎カラーの使用、クラッチフィールド法による頭蓋直達牽引等による頚部の安静
2.手術療法
脊髄の除圧を目的とし、除圧範囲が2~3椎間の場合は前方進入法恐れ以上の場合は後方進入法を行う。
前方進入法
椎体亜全摘+骨化部遊離+骨移植術
後方進入法
広範同時椎弓切除術、脊柱管拡大術
術前後の経過と管理
1.手術前について
いくつかの検査が必須であるが、その多くは苦痛を伴い、安静の制限を必要とするものもあるため、検査前からの十分な説明が必要である。また、検査中の苦痛に対する精神的援助を行い、スムーズに検査が行えるよう配慮しなければならない。
筋電図
検査室にて、検査部位の筋肉に針電極を刺し、筋肉の安静時および、随意運動時の活動電位の記録・観察を行い、神経・筋系の障害の種類や、回復の過程を知るために行う。
検査部位に毛があるときは、剃ることもある。電気刺激により、チクチクとした痛みを伴い、検査時間も30分以上かかる。検査前後に特別な処置や制限はないが、看護婦は検査に立ち会わないため、検査前にしっかり説明しておく必要がある。
ミエログラフィー
レントゲン透視室にて、クモ膜下腔に造影剤(脳・脊髄用のもの)を注入し通過状態を確認することで、脊髄腔内外の病変の診断を行う検査である。造影剤を使用するため、検査前の食事は禁止となり、検査中は点滴を留置し、検査後は食事開始時間と安静に制限がある。腰部の場合は約4時間の摂食禁止と、上半身を約30゜挙上した状態での症状安静が必要である。頚部の場合は約4時間の摂食禁止と、約4時間の、上半身を約30゜挙上した状態での症状安静が必要であり、その間の排泄は床上で行うこととなる。
検査中は、声かけや状況の説明を行い、患者の不安の軽減に努め、スムーズに検査が済むように介助を行うことが必要である。また、検査前より、検査後の安静の必要性や、造影剤の副作用についてよく説明を行い、安静が守られるように援助を行っていく。検査後は、造影剤の副作用の発現の有無、検査前後での症状の変化の有無の観察を行う。
SEP(脊髄活動電位)
硬膜外腔に電極を挿入し、脊髄を直接電気刺激して、その中枢側脊髄で発生した電位変化を記録分析する方法である。手術侵襲の程度を決めるモニタリングとして利用される。この検査は、硬膜外への針の刺入痛と電気刺激の苦痛に加え、デッキに覆われた状態で約1時間の腹臥位を強いられるため、精神的、身体的苦痛は大きい。そのため、術前から検査状況についての説明をしっかり行わなくてはならない。
検査前後の処置や、制限はないが、長時間の腹臥位保持が必要であり、検査前の食事は控えた方が良いとされている。
2.手術後について
頚椎の手術は、術後の回復の程度が予見しにくく、手術に伴う危険もほかの疾患に比べて高い。また、術後は頚部の固定を厳重に行った同一体位を長くとるため、苦痛が強い。これらを理解して看護にあたることが大切である。また、固定や支持の目的で、装具を装着して生活するため、これらの扱い方にも注意が必要である。
3.装具について
装具の種類には主にソフトカラー、フィラデルフィア装具、アドフィット装具がある。ソフトカラーは、プラスチックをウレタンのような素材で覆ったもので、頚部を1周するようになっている。フィラデルフィア装具は、ウレタンのような素材で前面、後面に分かれており、頚部のみでなく後頭部にまで及ぶ大きさである。アドフィット装具は、プラスチックのような素材で前面、後面に分かれており、後頭部、前胸部に及ぶ大きさである。ソフトカラーは、仰臥位のままで装着が可能である。他の2つは、砂嚢の高さを、患者が側臥位をとったときに、脊椎がまっすぐになるような高さに調整し、側臥位をとらせ、後面の装具をつけ、仰臥位に戻してから、前面の装具をつける。このとき、肌で感じる装具の異和感を軽減するためと、汗の吸収の目的でガーゼハンカチを挟む。
看護計画(術前)
Ⅰ.アセスメントの視点(術前)
全身麻酔で手術が行われるため、全身状態の評価が必要である。高齢者も多いので、既往症や機能の低下には十分注意する。
術後は床上安静に加えて頚椎の安静保持が必要であり、咳嗽や呼吸運動が抑制されやすい。また、このような慣れない体位での生活状況がイメージできないことが多いので、これらに対する術前練習を行い、どのような苦痛があるのか、またその対処方法を患者と共に把握する必要がある。
入院時より、四肢の運動障害や神経症状などによるADL不足がある事が多く、転倒などの危険性もあるのでADLの介助とともに危険の防止に努める。また、術後の症状の回復に不安をもっていることがあるので、精神面にも注意する。
Ⅱ.問題リスト(術前)
#1.疾患や手術に対する不安
[要因]・疾患そのものへの恐れ
・病気の兆候
(四肢の運動・知覚障害、腱反射の異常、病的反射、膀胱・直腸障害)
・手術そのものへの恐れ
・検査や治療に対する情報不足
・入院という慣れない環境
・社会的役割が果たせない
・手術後や退院後予期的不安(症状が良くなるか、再発への不安)
#2.疾患による苦痛
[要因]・頚部痛、上肢しびれ痛
・症状からくる精神的苦痛
#3.四肢の運動障害、神経症状の悪化、膀胱・直腸障害
[要因]・脊髄圧迫
#4.セルフケアの不足
[要因]・脊髄圧迫による四肢の運動、知覚障害(歩行障害、手指巧緻運動障害)
・筋力の低下
#5.手術後の肺合併症
[要因]・麻酔薬により気道や肺胞が乾燥することによる絨毛運動の低下
・麻酔薬や鎮静剤による胸筋、骨格の運動抑制
・創痛、頚部安静保持による咳嗽や呼吸運動の抑制
・高齢、肥満、喫煙歴、心疾患、呼吸器疾患、神経疾患の合併
#6.家族の不安
[要因]・疾患そのものへの恐れ
・患者の予後や経済面への不安
・家庭内の役割の変化(サポートシステムの不足)
・患者と家族間の人間関係(コミュニケーション)
Ⅲ.看護目標(術前)
1. 疾患、手術に対する不安が軽減され、手術にむけて精神的準備ができる
2. 苦痛の軽減を図り、体力の消耗が最小限になる
3. 全身状態の評価により術後肺合併症を予測し手術に対する身体的準備ができる
4. 家族の精神的慰安に努める
Ⅳ.看護問題(術前)
#1.疾患や手術に対する不安
[要因]・疾患そのものへの恐れ
・病気の兆候
(四肢の運動・知覚障害、腱反射の異常、病的反射、膀胱・直腸障害)
・手術そのものへの恐れ
・検査や治療に対する情報不足
・入院という慣れない環境
・社会的役割が果たせない
・手術後や退院後予期的不安(症状が良くなるか、再発への不安)
&診断のための検査と手術の必要性がわかり、納得できたことを言葉で表現できる
患者が思いや不安を言葉で表現できる
術前・術後の自分の状態がイメージでき、対処方法を言葉で表現する
$手術前日
O-1.入院への適応状況
2.疾患、術前検査、手術に関する患者の情報量とその理解度
3.表情、言語、態度の表出状況と不安の程度の関係
4.食欲、食事摂取状況
5.身体症状の有無と程度
6.睡眠状況
7.サポートシステムの状況
8.性格
9.対処行動と対処能力
T-1.検査の必要性、方法をわかりやすく説明して協力を得る
2.検査の結果について、医師から十分説明を受けることができるように配慮する
3.術前オリエンテーションを不安なく受けられるように援助する
1)術後の頚部固定の必要性を説明し、砂嚢固定下で安静を保持しながら安眠が可能か実際に行ってみる
2)パンフレットを用い、仰臥位(砂嚢固定下)での食事、排泄、含嗽、四肢の運動方法等を指導し、練習を行う
3)医師から指示があれば、その必要性を説明し、手術前日に後頚部の剃毛を行う
4.家族の支援が受けられるよう必要時参加を求める
5.不安を表出できるようにするため以下のケアをする
1)患者や家族の訴えをよく聴き、受容的態度で接する
2)不安が表出できるよう患者や家族との信頼関係をつくる
3)静かで休息のとれる環境をつくる
E-1.患者が術後の状態を具体的にイメージできるように説明する
2.砂嚢固定下での床上生活にむけての術前トレーニングの必要性を説明し理解を促す
3.医師の説明で理解不足の内容があれば追加説明し、納得して手術が受けられるようにする
4.不安な状態を表出してもいいことを伝え、不明なところは質問できるよう促す
#2.疾患による苦痛
[要因]・頚部痛、上肢しびれ痛
・症状からくる精神的苦痛
&身体的・精神的苦痛を最小限にとどめられる
$手術前日
O-1.痛み、しびれ痛の部位、性質、持続時間
T-1.安楽な体位を工夫する
2.医師の指示により鎮痛薬の使用、マッサージ、温罨法・冷罨法の使用
3.精神的苦痛もあるため、感情の動揺や緊張を避けるように援助する
E-1.痛みが自制不可の場合、医師、看護婦に報告する
#3.四肢の運動障害、神経症状等の悪化、膀胱・直腸障害
[要因]・脊髄圧迫
&異常の早期発見ができ、適切な処置を受けることができる
$手術前日
O-1.運動状態、神経症状(しびれ、知覚の有無)の観察
排泄状況の観察(頻尿、残尿、便秘)
T-1.急激な症状悪化の場合は医師に報告
E-1.症状の悪化している場合、医師、看護婦に報告するよう説明する
#4.セルフケアの不足
[要因]・脊髄圧迫による四肢の運動、知覚障害(歩行障害、手指巧緻運動障害)
・筋力の低下
&入院生活を安全・安楽にすごすことができる
$手術前日
O-1.食事動作、清潔行動、移動動作、排泄行動等、行動能力の程度
2.疼痛、神経症状の程度(及び鎮痛剤の効果)
T-1.不足ADLの介助
例 食事:スプーン・フォークの使用、配湯・下膳介助
保清:清拭、洗髪、入浴介助、歯磨き介助
排泄:尿器やポータブルトイレの使用
歩行器・車椅子の使用、他科受診時担送介助
ベッド周囲の環境整備
E-1.危険防止の必要性について患者に伝え、危険のない範囲でADLが自立して行えるように指導する
#5.手術後の肺合併症
[要因]・麻酔薬により気道や肺胞が乾燥することによる絨毛運動の低下
・麻酔薬や鎮静剤による胸筋、骨格の運動抑制
・創痛、頚部安静保持による咳嗽や呼吸運動の抑制
・高齢、肥満、喫煙歴、心疾患、呼吸器疾患、神経疾患の合併
&手術後に肺合併症の起きる可能性の高いことが理解できたと表現する
肺合併症予防のための術前練習の必要性がわかったと表現する
肺合併症予防のための練習が実施できる
$手術前日
O-1.呼吸状態
2.咳嗽、喀痰の有無と程度
3.呼吸機能検査の結果
4.リスクファクター(高齢、肥満、喫煙歴、喫煙量、心・神経疾患、閉塞性肺疾患の有無と程度)
5.胸部X-Pの結果、胸郭の変形の程度
6.動脈血ガス分析の結果
7.手術の受け止め方
T-1.パンフレットを用い、合併症予防の練習を行う(深呼吸、含嗽、喀痰方法等)
E-1.肺合併症のための術前トレーニングの必要性を説明し、理解を促す
2.禁煙、体重の減量、術前トレーニングの必要性を説明し、理解を促す
#6.家族の不安
[要因]・疾患そのものへの恐れ
・患者の予後や経済面への不安
・家庭内の役割の変化(サポートシステムの不足)
・患者と家族間の人間関係(コミュニケーション)
&家族ケア、家族サポートをとおして患者が支えられる
$手術前日
O-1.家族の表情、言語による表現、態度
2.家族と患者との人間関係
3.家族、患者間の疾病の理解、認識の差
4.家族間のサポートシステム
5.家族の状況判断能力
6.家族がとらえている患者の性格傾向
7.経済的問題の存在
T-1.家族とのコミュニケーションをとり、不安や心配事を表出しやすいように受容的態度でかかわる
2.家族の考えと医療者の考えの違いがないか、また患者の考えを尊重してかかわる方法について相談し検討する
3.家族内で起きている問題の対処ができているか、解決困難な時は相談にのる
E-1.家族が患者の今後についてイメージできるように、術後の状況、入院期間、社会復帰の時期等についての知識を与える
2.家族に患者のサポートの必要性を説明する
看護計画(術後)
Ⅰ.アセスメントの視点(術後)
頚椎の手術後は、頭頚部の固定により同一体位の保持が必要であり、一般の全身麻酔後の侵襲に加え、それに対する二次障害の予防と早期発見が必要である。
また、リハビリテーション時期においても頚椎の固定を保持しながら離床、ADLの拡大に対する援助が必要である。
Ⅱ.問題リスト(術後)
#1.肺合併症
[要因]・気管内挿管や麻酔剤による分泌物の増加
・疼痛や不安による呼吸抑制
・頚椎の固定、咽頭の浮腫による分泌物の貯留
#2.腸蠕動の低下
[要因]・全身麻酔による影響
・術中体位(腹臥位)
・仰臥位安静保持
#3.術後出血、リコールの流出
#4.創、採骨部の疼痛
#5.症状の悪化に伴う苦痛
[要因]・一過性の神経症状の悪化
・膀胱直腸障害
#6.頭頚部の固定、同一体位による苦痛
#7.セルフケアの不足
[要因]・疼痛
・頭頚部の固定
・四肢の運動知覚障害
#8.精神的活動の低下
[要因]・同一体位の保持
・高齢者が多い
#9.床上安静による筋力の低下、関節の拘縮
#10.リハビリテーション期における危険
#11.退院時指導の必要性
Ⅲ.看護目標(術後)
1. 手術後の苦痛の緩和を図り、頚椎の安静保持ができる
2. 術後の合併症を防止し、四肢の知覚・運動状態の変化に対応する
3. 頚部の安静を保持しながらもADLが充足できる
4. 安全にリハビリテーションがすすめられる