すぽんさーどりんく

すぽんさーどりんく

経カテーテル肝動脈塞栓療法を受ける患者の標準看護計画-035

 経カテーテル肝動脈塞栓療法を受ける患者の標準看護計画(TAE)

肝動脈塞栓療法(TAE)とは

 肝臓は、肝動脈と門脈の2系統の流入血管をもち、両者から酸素や栄養の供給を受けている。しかし、肝癌は肝動脈のみから栄養を受け、門脈からは栄養を受けていない。TAEとは、この血流支配の特性を利用し、大腿動脈よりカテーテルを、通常の血管造影と同様に腹腔動脈を経て肝動脈に選択的に挿入し、そこから油性造影剤(リピオドール)と抗癌剤(エピアドリアマイシン等)と塞栓物質(ゼルフォーム)を混和したものを注入し、肝動脈を閉塞することにより、選択的に肝細胞癌を壊死に導く治療法であり約70%に効果を認めており、肝切除と並び肝細胞癌の双璧をなしている。 

適応

高度の肝障害のない例(チャイルド分類A・B) 

腎不全、心不全等全身の合併症が併存しない場合 

門脈内にまで腫瘍塞栓がみられない場合 

検査によるおもな合併症と症状

 1.動脈穿刺、動脈造影に伴う合併症 

 2.動脈を塞栓することによる副作用、合併症 

腹痛、発熱、悪心・嘔吐、呼吸困難 (肝動脈塞栓、肝癌壊死による) 

急性胆嚢炎、膵炎、胆嚢・脾・小腸梗塞、麻痺性イレウス、肝膿瘍、胃・十二指腸潰瘍による消化管出血等、肝不全、ショック 

 3.抗癌剤による副作用 

胃腸障害、腎障害、骨髄抑制による易感染性、体力の低下 

看護計画

Ⅰ.アセスメントの視点

 TAEそのものによる副作用、抗癌剤による副作用の出現を抑えることはできないが腫瘍の大きさ、肝予備能、治療の種類と程度を充分把握したうえで、どの程度の副作用が出現するかを予測して看護を行うことが重要である。

 肝臓癌はTAEで根治する症例は非常に少なく、再発率は極めて高く再治療する症例も多い。こういう点からも患者のQOLの向上を最優先とし、家族並びに社会背景を理解し、患者が最も不安な点や苦痛に感じる点を可能な限り解決できるように援助していくことが大切である。 

Ⅱ.問題リスト

#1.動脈穿刺、動脈造影検査に伴う合併症


#2.発熱

   [要因]・腫瘍の変性、壊死による生体の反応

       ・抗癌剤の骨髄機能抑制作用によりおこる感染


#3.疼痛(腹痛)

   [要因]・腫瘍壊死による心窩部痛、背部痛

       ・肝動脈以外の臓器の血管に塞栓物質が流入し、塞栓された場合

        (胆嚢炎、膵炎、麻痺性イレウス、肝膿瘍などがおこる)


#4.悪心・嘔吐

   [要因]・腫瘍壊死による

       ・抗癌剤の中枢神経への作用

       ・不安など心因性


#5.呼吸困難

   [要因]・抗癌剤(エピアドリアマシン)の繰り返し投与による心毒性

       ・リピオドールの関与したアレルギー機序による


#6.消化管出血

   [要因]・骨髄機能抑制(白血球、血小板減少)による出血

       ・塞栓物質が肝動脈以外の血管に流入した為


#7.肝機能障害、肝不全、腎不全

   [要因]・抗癌剤の量依存性の肝障害作用による肝機能低下、腎機能低下

Ⅲ.看護目標

1. 検査、治療の目的・方法・副作用等について理解され、精神的に安定した状態で検査治療を受けることができる 

2. 全身状態の評価から治療後の合併症を予測し、治療に対する身体的準備ができる 

3. 治療による副作用に早く対処し精神的、身体的苦痛の軽減ができる 

Ⅳ.看護問題

#1.動脈穿刺、動脈造影検査に伴う合併症

#2.発熱

   [要因]・腫瘍の変性、壊死による生体の反応

       ・抗癌剤の骨髄機能抑制作用によりおこる感染


  &体温が37℃前後に解熱、回復してきたことを自覚できる

   穏やかなくつろいだ表情と態度を示す

  $治療後1~7日前後まで


O-1.バイタルサイン、熱型

  2.血液検査データ(WBC、CRP)

  3.随伴症状(悪寒、戦慄、頻脈、発汗、体熱感、疼痛、尿量減少)の把握

  4.治療内容の程度と行われている処置(解熱剤、抗生物質、鎮痛剤等)の効果


T-1.発熱に伴う悪寒の軽減(保温の為の湯タンポ、毛布の用意)

  2.安静を維持し、体熱感時冷罨法

  3.皮膚の清潔保持、寝衣やリネン交換

  4.指示された薬(解熱剤、抗生物質、鎮痛剤、輸液等)の投与


E-1.治療後、患者に治療により発熱が起こることを説明し励ます

  2.安静の必要性を説明し、処置により状態の改善がみられることを説明する

  3.急激な発熱や悪寒時は、医師または看護婦に知らせるように指導する

  4.白血球減少時は、含嗽、マスクの着用を指導

  5.必要に応じて面会人の制限をする

#3.疼痛(腹痛)

   [要因]・腫瘍壊死による心窩部痛、背部痛

       ・肝動脈以外の臓器の血管に塞栓物質が流入し、塞栓された場合

        (胆嚢炎、膵炎、麻痺性イレウス、肝膿瘍などがおこる)


  &疼痛が緩和したことを言葉で表す

   穏やかな表情、リラックスした体位になる

   活動範囲が広がる

  $治療中~治療後1~2日まで


O-1.疼痛に対する患者の訴えや表情、動作、バイタルサインチェック

  2.疼痛の性質、部位、程度、持続時間

  3.塞栓部位、使用した抗癌剤、塞栓物の量の把握

  4.随伴症状(悪心・嘔吐)の有無と程度

  5.鎮痛剤が使用されている時はその効果


T-1.医師より指示されている鎮痛剤を効果的に使用する

  2.安静を維持し、可能な範囲で安楽な体位を工夫する

  3.痛みが自制不可の場合は、医師に報告し、鎮痛薬の指示を受ける

  4.合併症の早期発見につとめ、異常時は速やかに医師に報告し、指示に従う

  5.指示により絶飲食とする

  6.精神的安定への援助

    1)痛み、不安等の感情の表出を促す

    2)痛みに対する理解を示し、支持・激励的態度で接する


E-1.治療による痛みであることを説明し、痛みが増強する場合は医師または看護婦にすぐ知らせるように指導する

  2.安楽な体位のとり方について指導する

#4.悪心・嘔吐

   [要因]・腫瘍壊死による

       ・抗癌剤による胃腸障害

       ・不安など心因性


  &悪心、嘔吐が軽減し、経口摂取ができる

   穏やかなくつろいだ表情と態度をしめす

  $治療中~治療後1~3日まで


O-1.患者の訴えや表情、動作、バイタルサインチェック

  2.嘔吐がある場合は吐物の量・性状・回数等と1日水分摂取量、尿量チェック

  3.随伴症状(疼痛、腹部膨満感、気分不快)の有無と程度

  4.制吐剤が使用されている場合はその効果

  5.使用した抗癌剤、塞栓物の量の把握


T-1.胃部に冷罨を試みる

  2.安静を維持し、可能な範囲で安楽な体位を工夫する

  3.悪心・嘔吐が続く場合は、医師に報告し点滴輸液や制吐剤の指示をうける

  4.氷水の含嗽などにより口腔内の清潔をはかる

  5.疼痛、悪心・嘔吐が発症した場合は、絶食にして経過観察をする

  6.精神的安定への援助

    1)悪心や嘔吐による不安や苦痛を表出できるような雰囲気をつくる

    2)悪心・嘔吐に対する理解を示し、支持・激励的態度で接する


E-1.悪心・嘔吐は治療により起こるが、軽減することを十分患者に説明する

  2.安楽な体位のとり方について指導する

  3.食事は量的にも負担が無く消化吸収のよいものを摂取するように指導する

  4.苦痛や不安があるときは我慢せずに医師や看護婦に知らせるように指導する

#5.呼吸困難

   [要因]・抗癌剤(エピアドリアマイシン)の繰り返し投与による心毒性

       ・リピオドールの関与したアレルギー機序による


  &異常の早期発見ができ、適切な処置を受けることができる

   肺炎、心不全などの合併症がおきない

  $治療中~治療後1~2日


O-1.患者の訴えや表情、動作、バイタルサインチェック

  2.随伴症状(発熱、咳嗽、動悸、浮腫、労作性呼吸困難)の有無と程度

  3.使用した抗癌剤、塞栓物の量の把握


T-1.安楽な体位を工夫し、呼吸困難の緩和をはかる

  2.指示された酸素投与が確実に実施できるように配慮する

  3.急性増悪に備え、挿管、気管内吸引、人工呼吸器等の緊急体制を整えておく


E-1.異常を感じたらすぐに医師や看護婦に知らせるように説明する

#6.消化管出血

   [要因]・骨髄機能抑制(白血球・血小板減少)による出血

       ・塞栓物質が肝動脈以外の血管に流入した為


  &消化管からの出血の異常の早期発見ができる

  $治療後~3週間


O-1.患者の訴えや動作、バイタルサインチェック(血圧低下、頻脈、呼吸促拍)

  2.吐血、下血、貧血症状の有無と程度

  3.血液データ(ヘモグロビン、ヘマトクリット、プロトロンビン時間、WBC、RBC、血小板、電解質、肝機能)と全身状態の観察


T-1.徴候や症状をアセスメントし、異常時は速やかに医師に報告する

  2.安静を保持する

  3.嘔吐後冷水で含嗽させ、嘔気を誘発させない

  4.出血部位により適切な処置を行う

  5.体位変換、便器介助時は腹圧をかけないようにおこなう

  6.輸液、輸血の管理

  7.清潔面への援助を行う

  8.緊張感や恐怖を持たせないように、落ち着いた態度で接する


E-1.安静の必要性を説明し、処置により症状の改善が見られることを説明する

  2.吐血、下血、その他異常時は、医師または看護婦に報告するように説明する

#7.肝機能障害、肝不全、腎不全

   [要因]・抗癌剤の量依存性の肝障害作用による肝機能低下、腎機能低下


  &全身状態の観察を適確に行い、早期に治療が開始できる

   十分な肝機能、腎機能を維持する

  $治療後~3週間


O-1.バイタルサインチェック

  2.食事摂取量、水分出納、尿量、比重、体重チェック

  3.自覚症状(食欲不振、全身倦怠感、腹部膨満、疼痛、発熱、悪心・嘔吐、尿量減少、呼吸困難、貧血など)の観察

  4.他覚症状(浮腫、出血傾向、黄疸、腹水、消化管出血、脱水、脂肪便、脳症など)

  5.血液データ(WBC、血小板、BUN、K、クレアチニン、ICG15分値、ビリルビン、GOT、GPT、AIP、PT、アルブミン、コレステロール)

  6.薬剤の種類・量・投与期間、年齢、肝硬変の重症度


T-1.徴候や症状を観察、アセスメントし、異常時は速やかに医師に報告する

  2.安静を維持し、安楽な体位をとらせる

  3.感染防止のための皮膚の清潔保持

  4.出血傾向に注意し、採血後、点滴後の止血を確認

  5.水分出納、電解質バランス、食事、注射・輸液療法の管理を行う

  6.処置時、検査時は医師からの説明内容の理解度を確認し、再度補足を行う

  7.家族を含めた精神面への援助を行う


E-1.患者の不安を軽減するために状況を理解できるように説明する

  2.治療計画の意義を理解させ、安静、保温、食事、薬物療法に関する具体的な指導を行う